いいお嫁さん、やめてもいい?
思えば泰海が生まれてからはすっかり赤ちゃん中心の生活になり、他愛もない話をたのしんだり、当たり前のように触れ合ったり、そんな以前の夫婦2人きりだった頃のような時間をここ最近は取れていなかった。
夫婦の間に甘い雰囲気が漂うのもすごく久し振りだから、うれしいけど、それを上回るはずかしさでつい戸惑ってしまっていた。
「もう正午だよね。……もうすぐ、お義父さん迎えにいく時間だよ?」
話題を逸らすように言った言葉は、拒否なんかじゃなくてただの照れ隠し。
こんなふうに気恥ずかしさでわたしが一歩退いてしまっても、いつも法資はすこし強引に距離を詰めてきてくれる。わたしたち夫婦はそうやってバランスを取っていた。そのはずなのに、今日の法資はわたしを閉じ込めていた腕をそっと解いてしまう。
思わず後ろを振り返ったわたしを見て、法資は苦笑した。
「……こんなモンまで用意してくれるなんて、おまえはほんと出来た嫁さんだな」
それだけ言うと、法資はそのままあっさり引き下がった。以前ならこのまま抱き締められたり、ベッドになだれ込んだり、それが無理でもキスだけでもしたはずなのに。
これから来客の予定があるのだから当然といえば当然だけど。今のほんの一瞬の触れあいで法資とのスキンシップに飢えてる自分に気付かされてしまったから、物分りのいい法資の態度がなんだか寂しかった。