犯罪彼女
「それは違うね」
林さんは質問ではなく、ただ僕の言葉を否定した。
「君は死ぬ勇気がなかったんじゃなくて、死ぬ気持ちがなかったんだよ。
ただ死ぬことを求める、それこそが君の満足する日常。その証拠に君は今、死にたいと思っていないでしょ? むしろ、ここにいるのを後悔しているんじゃない?
若い頃にはよくあることだよ。逃げ場のない現実から逃避するために死を夢想するなんてね」
「そんなことーー」
ない、と言い切れるのか。
事実僕は地面から目を逸らしている。
それはなぜか。怖いからだ。
何を恐れているのか。それは死だ。
だけど認めたくない。認めれば僕の唯一無二の確かな感情すらも否定してしまうようで。
それを失えば僕じゃなくなるようで。
「ちなみに私はまだまだ死ぬつもりはないよ。死んでいく君を見るためにここにいるだけだから。
もしも君の願望が本物だというなら、飛び降りればいい。ここまでお膳立てしてやったんだから、それくらいできるんじゃない?」
口角を上げる。相変わらず整った笑みだ。
これもありかもしれない。
こんな人生の終わりだってあっていいかもしれない。
どうせ僕が死んだって誰も悲しまない。
僕が生きていたって幸せを手にすることはできない。
僕の死を悲しんでくれる人も、僕の幸せそのものも、もうこの世にはいないのだから。
……僕は一歩、踏み出した。