犯罪彼女
「情報屋の嬢ちゃん。悪いな」
「いえいえ。仕事ですから」
女に話しかけるスカーフェイスのハゲ。聞き覚えのある声だ。多分、今朝うちに取り立てに来た奴。
「さて、原西鉄男。一応紹介だけしておくよ。
こちらの男性は君もご存知、若松組の組員の岡村さん。
向こうの黒のスーツのヤクザは野上さん。
あっちの眼鏡は闇医者の村上。
よかったねぇ、やっと借金が返せるよ」
女はニコリと笑う。冷たい瞳で。
ヤクザ二人に闇医者一人。何の集まりだ。
「嬢ちゃん。どう見てもこいつに五千万の価値はねぇぜ?」
「いや、そんなことはないですよ。
確かに人間としての価値はないも同然だろうけど、人間は扱い方次第でゴミにも金のなる木にもなりますから」
「嬢ちゃんなら金のなる木に出来るのか?」
「そうですよ。
情報を制する者が世界を制する。それはどの時代でも変わらない。
多くの情報とそれを活かす頭さえあれば、何もかもを思い通りにすることができる」
軽い口調で言った女と目が合う。口調こそ軽いものの、その目は本気だった。
背中に悪寒が走る。
「原西鉄男がどうなるか、知りたいですか?」
「いや、俺はいらねえ。金さえあればいい。
それにな、余計な事に首を突っ込まないのがこの世界での生き方だ」
「……ああ、自重しろってことですか? それは無理ですね」
女がにこやかに否定した。
「面白いものが世界にはこんなに溢れている。首を突っ込まないわけにはいかない」
「嬢ちゃんには敵わんなぁ」
岡村が呆れた顔でため息をついた。そしてスーツのヤクザから黒いアタッシュケースを受け取る。
「まあ私が死んだ時には笑ってやってくださいよ」
「自業自得過ぎて笑うこともできねえよ」
岡村はそう言って裏口へと向かった。
水族館に残されたのは、俺、女、スーツ、眼鏡の四人だ。今から何が始まるのだろうか。
……俺はどうなるのだろう。