【完】狼様の最愛。
亜希が山に来ない日は、ただ酷く虚しく感じる。
一日がとても、つまらないと思う。
その時はまだマリンを含めた動物達の数も少なく、儂に構うと言えば亜希しかいなかった。
いつしか人間の彼女、亜希が、誰よりも大切だと思うようになった。
けれども、亜希は人間。
動物の儂とは、会話も為せない。
亜希は二十歳のとき、この村を出ていった。
村を出る直前、亜希は男を連れて、儂の元へと一度だけ顔を出しに来た。
その男が、中本哲郎。
「狐さん! 私ね、この人と村を出ていくの。」
「今は無理だけれど、いつかは……結婚したいと思ってる。」