本当は怖い愛とロマンス
車でびしょ濡れのまま、俺の自宅まで江里を連れて行き、着替えとタオルをぶっきらぼうに渡すとシャワーを浴びてくるように伝え、バスルームまで案内した。
その後、俺は服を部屋着に着替え、濡れた髪と身体を軽く拭くと、倒れこむようにソファに沈み込んだ。
俺は江里を抱きしめた手を見つめながら、強く拳を握り締めた。
しばらくすると、ガチャっとドアが開く音がしてブカブカの男物の服を着た江里がシャワールームからタオルで頭を拭きながら、俺の前に恥ずかしそうな顔をして現れた。
その姿を一瞬見ると、俺は直ぐに目を逸らし、何も言わずに台所に向かう。
食器棚からマッグカップを取り出すと、冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、注ぎながら、
「身体冷え込んでるから、ホットミルクでいいか?」と聞くと、江里は黙って頷いた。

電子レンジにマグカップを入れると、冷蔵庫から取り出したウィスキーを持ってきてグラスに注ぐ。
緊張してソファに座っていた江里の隣に腰を下ろした。

「あのさ、さっきのは事故みたいなもんだから…そんな警戒した目で俺を見るな。お前には何にもしないよ。」

ウィスキーを一口飲み、タバコに火をつけると江里の方も見ずにそう言った。

江里はそんな俺の横顔をじっと見つめて、下唇をぐっと噛み締めた。

「そんなの解ってますよ。ただ、男の人にあんな風に抱きしめられたのって久しぶりなので、動揺してしまっただけです。」

そう言った瞬間レンジの音が聞こえ、俺は灰皿にタバコを置くとキッチンに行きマグカップを取り出し、ソファに座っていた江里のところまで持っていき、差し出した。

「さっきお前が知りたがってた結末ってやつを教えてやるよ。」

江里がそのマグカップを受け取ると、さっきの吸いかけていたタバコを吸いながら、横に座り、首から下げたネックレスを江里に見せた。

「ここには、骨が入ってる。戒めみたいなもんだよ。俺が彼女を殺してしまった。お前が何度も通ってまでドラマの主題歌にしたがっていたあの歌は彼女の事だけを想って作った歌だ。だから、もう、俺にはあの歌は歌えない。あの歌は彼女だけのものなんだ。他の誰かに聞かせることは出来ない。」

江里は一瞬びっくりした顔をしてマグカップに入っていたホットミルクを一口飲む。

「本木さんは彼女を本当に愛してたんですね…」


俺はその言葉に一瞬口元を緩めた。

「彼女は、俺の昔の死んだ彼女を殺した男の娘だったんだ。そして、その彼女の一部を身体にもった顔までも瓜二つな女に恋をしていた。俺は今でもわからないんだよ。俺が愛していたのは、誰だったのかって…」

俺は再びタバコに火をつけると、遠い目をしてタバコの煙を口から出した。

黙り込んだ江里に追い打ちをかけるように俺は言った。

「同情して見合った言葉も出てこないか?俺はこの時間を生きる時間を一度捨てたんだよ。でも生きる事を選択したのは、死んだ彼女の為だ。彼女が生きるはずだった時間を俺が生きる事で彼女が浮かばれるならなんて…俺の勝手な独りよがりだけどな。」

江里はその言葉を聞いた後、静かに俺に言った。

「今でも彼女を愛してるんですね。」

俺はその言葉に自然に笑顔が溢れていた。

そして、「そうかもしれないな。」と江里に答えた。








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