本当は怖い愛とロマンス
目が覚めると俺は、病室のベッドに寝ていた。
酷い頭痛に顔を歪め、眠さで焦点が合わずにぼやける視界の中に俺の名前を呼び続ける姿が見える。
「本木さん!」
その声と共にピンぼけだった視界がクリアになった瞬間、心配そうに俺を見つめる龍之介の姿が見えた。
龍之介の話では、何度か電話をしても通じない俺を心配して家に行くと、何度呼びかけても反応がなかったので病院まで運んだということだった。

「大袈裟なんだよ。お前は。」

そう笑って言った俺は、昨日の夜からここに運ばれるまでの記憶さえもないことだけがなんとなく胸に引っかかっていた。
ドアをノックして入ってきた看護師に俺は診察室で先生が話があると言われ、呼ばれた。

静かな薄暗い長い廊下に看護師の靴音が響いていて、連れられて歩いている間、俺の胸の引っかかりは確信に変わる。

医者に真剣な表情で見せられた脳のレントゲン。
長い説明の間、俺の耳には医者の唇の動きだけで何の音も聞こえない。
その診察室は、俺にはパラレルワールドの様に感じた。
全ての説明が終わり、診察室を出た後、俺は廊下で声を上げて、大笑いした。


俺の脳には、手術では全てを取りきれないほどの大きな悪性の腫瘍があるらしい。
ずっと続いていた頭の頭痛は、二日酔いのせいなんかではなく、腫瘍が神経を圧迫しているのが原因だったらしい。
放射線や抗がん剤で腫瘍を小さくしてから、手術をという説明をされた。

皮肉なものだ。
死のうとし、今生きる意味さえも失っても生かされている俺の命は、あと少ししか残ってないということを知ったんだから。
それでも、こんなにも悲しく苦しいとかんじるのは、俺にまだ生きている事への未練があるからなのかもしれない。

俺はポケットに入っていたタバコに火をつけると、禁煙と大きな看板が立っている表示に煙を吐き出した。
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