本当は怖い愛とロマンス
次に目を開けると、俺は、店の裏の休憩室の椅子の上に寝ていた。
起き上がろうとすると、頭に鈍い痛みが走り、顔を歪める。
「本木さん。気がついたんですか?宇野さんが倒れた時、ここまで運んでくれたんです。」
その声に、後ろを振り向くと、氷を入れた袋を持った渚がドアを開けて、立っていた。
氷が入った袋を俺の後頭部に当てると、やんわりと冷たい感覚で痛みが和らいでいるような気がした。
「まだ痛いですか?ここ」
氷の入った袋をどけて、さっきぶつけたところを確かめるように、手が触れる感覚が伝わってくる。
すると、また、胸の鼓動が早くなり、息苦しくなる。
その感覚にまだ慣れる事ができずに、耐えきれなくなった俺は、感情的に渚を怒鳴りつけた。
「やめろ!」
すると、渚は、俺の声にびっくりした顔をして、手を引っ込める。
「ごめんなさい。私、また、馴れ馴れしくしちゃって。氷、ここに置いときますね。しばらく、冷やした方がいいですよ。たんこぶになってるから。」
渚は、俺の冷たい態度に、また逃げるように、去ろうとしていた。
「ちょっと待て。逃げる事ないだろ。」
咄嗟に、俺は、言葉より先に、逃げようとする渚の手を掴んでいた。
そのまま、渚は、静かに、俺の横に、バツが悪い顔で腰を落とす。
思うようにいかない胸の苦しい痛みに窮屈さを感じ、苛立ちながら、呼吸を整えた後、俺は、言葉を切り出した。
「俺は、お前の事を馴れ馴れしいとか思ってなんかない。ただ…」
勢い余って、渚の顔をまともに見た途端、言葉が出てこなくなった。
頭が真っ白になった。
俺は堪らずに、また、下を向く。
渚は、そんな俺を見て、寂しそうに笑って言った。
「言いにくいですよね。解ってます。いつまで、宇野さんに甘えるつもりだって言いたいんですよね?ここにいると、私のせいで、宇野さんや奈緒さんにまで、迷惑かけちゃいますもんね。多分、隼人は、どんな手をつかっても私の事、見つけるだろうし。私、明日、出て行きますから。これ以上、皆さんには迷惑かけられないし…」
俺は、渚の言葉に、今までの我慢していた気持ちが溢れ出して、言葉を濁さずに反論した。
「いつも、いつも、何考えてんだよ。AVの面接に来たり、自分で自分の手首切ったり、急に店からいなくなるっていったり、そんなの黙って、ほっとける訳ないだろ。そんな他人の事ばっかり考えて、同じ事繰り返す人生で、お前は、いいのか?お前の本当の気持ちはどうなんだよ?本当は、出ていきたくなんかないんだろ?だったら、自分を犠牲にしないで、自分が幸せになる方を選べよ。」
すると、渚は、笑って答えた。
「ありがとう。本当は優しいんですね。本木さん。」
「いや…別に俺は…ただ、ほっとけなかっただけだ。」
俺は、渚の言葉に、照れるように顔をそむけた。
安心したような渚の表情にさえ、いちいち俺の胸は反応する。
すると、渚は、そんな俺に言った。
「なんか不思議。本木さんがほんの数分前までは、冷たくて無愛想な人で苦手だったのに、今、そうじゃないって、なんとなくだけど、わかりました。」
何よりも、そう話す渚の言葉が、嬉しかった。
その時、多分、自然と溢れ出した喜びで表情が、緩んでいたのだろう。
そんな俺を見て、渚は子供のようにはしゃいだ。
「今、本木さん、私の前で初めて笑いましたよね。なんか嬉しい!」
「本当、お前って、変な女だな…」
そんな渚の姿と言葉があまりにも子供っぽくて、可笑しくて、俺は、声を出して笑った。
気にもしていなかったが、俺は、ずっと、心底笑う事を忘れていたようだった。
ずっと俺は、どこか他人に本当の自分をさらけ出すことが恐かったんだ。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、当たり前の事だとわかっていたはずなのに。
でも、死んだ渚と瓜二つの彼女に出会い、俺は、心の奥にしまっていた過去の時間のままで止まっていた時計が動き出したのが解った。
そして、もう一度、俺は、ずっと、願っても叶うはずのなかった失っていたはずの時間を今、渚本人じゃなかったとしても、彼女と確かに感じている。
自然と、喜び、はしゃぐ渚の表情を見つめながら、微笑んだ俺には、感じた事のなかった温かいものが、体中に流れこんでいた。
起き上がろうとすると、頭に鈍い痛みが走り、顔を歪める。
「本木さん。気がついたんですか?宇野さんが倒れた時、ここまで運んでくれたんです。」
その声に、後ろを振り向くと、氷を入れた袋を持った渚がドアを開けて、立っていた。
氷が入った袋を俺の後頭部に当てると、やんわりと冷たい感覚で痛みが和らいでいるような気がした。
「まだ痛いですか?ここ」
氷の入った袋をどけて、さっきぶつけたところを確かめるように、手が触れる感覚が伝わってくる。
すると、また、胸の鼓動が早くなり、息苦しくなる。
その感覚にまだ慣れる事ができずに、耐えきれなくなった俺は、感情的に渚を怒鳴りつけた。
「やめろ!」
すると、渚は、俺の声にびっくりした顔をして、手を引っ込める。
「ごめんなさい。私、また、馴れ馴れしくしちゃって。氷、ここに置いときますね。しばらく、冷やした方がいいですよ。たんこぶになってるから。」
渚は、俺の冷たい態度に、また逃げるように、去ろうとしていた。
「ちょっと待て。逃げる事ないだろ。」
咄嗟に、俺は、言葉より先に、逃げようとする渚の手を掴んでいた。
そのまま、渚は、静かに、俺の横に、バツが悪い顔で腰を落とす。
思うようにいかない胸の苦しい痛みに窮屈さを感じ、苛立ちながら、呼吸を整えた後、俺は、言葉を切り出した。
「俺は、お前の事を馴れ馴れしいとか思ってなんかない。ただ…」
勢い余って、渚の顔をまともに見た途端、言葉が出てこなくなった。
頭が真っ白になった。
俺は堪らずに、また、下を向く。
渚は、そんな俺を見て、寂しそうに笑って言った。
「言いにくいですよね。解ってます。いつまで、宇野さんに甘えるつもりだって言いたいんですよね?ここにいると、私のせいで、宇野さんや奈緒さんにまで、迷惑かけちゃいますもんね。多分、隼人は、どんな手をつかっても私の事、見つけるだろうし。私、明日、出て行きますから。これ以上、皆さんには迷惑かけられないし…」
俺は、渚の言葉に、今までの我慢していた気持ちが溢れ出して、言葉を濁さずに反論した。
「いつも、いつも、何考えてんだよ。AVの面接に来たり、自分で自分の手首切ったり、急に店からいなくなるっていったり、そんなの黙って、ほっとける訳ないだろ。そんな他人の事ばっかり考えて、同じ事繰り返す人生で、お前は、いいのか?お前の本当の気持ちはどうなんだよ?本当は、出ていきたくなんかないんだろ?だったら、自分を犠牲にしないで、自分が幸せになる方を選べよ。」
すると、渚は、笑って答えた。
「ありがとう。本当は優しいんですね。本木さん。」
「いや…別に俺は…ただ、ほっとけなかっただけだ。」
俺は、渚の言葉に、照れるように顔をそむけた。
安心したような渚の表情にさえ、いちいち俺の胸は反応する。
すると、渚は、そんな俺に言った。
「なんか不思議。本木さんがほんの数分前までは、冷たくて無愛想な人で苦手だったのに、今、そうじゃないって、なんとなくだけど、わかりました。」
何よりも、そう話す渚の言葉が、嬉しかった。
その時、多分、自然と溢れ出した喜びで表情が、緩んでいたのだろう。
そんな俺を見て、渚は子供のようにはしゃいだ。
「今、本木さん、私の前で初めて笑いましたよね。なんか嬉しい!」
「本当、お前って、変な女だな…」
そんな渚の姿と言葉があまりにも子供っぽくて、可笑しくて、俺は、声を出して笑った。
気にもしていなかったが、俺は、ずっと、心底笑う事を忘れていたようだった。
ずっと俺は、どこか他人に本当の自分をさらけ出すことが恐かったんだ。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、当たり前の事だとわかっていたはずなのに。
でも、死んだ渚と瓜二つの彼女に出会い、俺は、心の奥にしまっていた過去の時間のままで止まっていた時計が動き出したのが解った。
そして、もう一度、俺は、ずっと、願っても叶うはずのなかった失っていたはずの時間を今、渚本人じゃなかったとしても、彼女と確かに感じている。
自然と、喜び、はしゃぐ渚の表情を見つめながら、微笑んだ俺には、感じた事のなかった温かいものが、体中に流れこんでいた。