本当は怖い愛とロマンス
「西岡さん、俺に何が言いたいんですか?」

俺は、感情的になり、興奮して、西岡を怒鳴りつけていた。

すると、西岡は悪魔でも冷静に、横に座っている俺に黙って、自分の携帯電話の写真を差し出した。
その写真には、西岡がよく利用するゲイバーのイベントの写真だった。
そこには、裸の男同士のあられもない姿が写っていた。

その時、俺は、眠気も吹き飛んで、眼に映るその姿に言葉を失っていた。

「面白いでしょ?これ。」

俺は、慌てて、写真から目を背けるように、西岡に携帯電話を突き返した。

「本木君、そんな顔しないでよ。びっくりした?」

深刻な顔が急に笑顔に変わった西岡は、そう言うと、笑いながら、俺に見せた携帯に入っていた写真を一枚、一枚削除していく。

「そんな怒らないでよ。全部、誤解だよ。あんまり、怒ってるから、笑かせようと思って、ほんの冗談のつもりで。」

「ちょっと…ふざけてるんですか?一体こんな笑えない冗談…なんのために?」

西岡は、携帯に目をむけながら、こう言った。

「本木君、この世の中には色んな人間がいて、それぞれ、個々に違う時間が流れてる。その中には、君の知らない世界の時間だって、事実存在してる。目に見えてるものだけが全てじゃないっていったのは、君が今、見ているものは、君の価値観で作り上げた世界での事実だ。真実味なんて何もない。そんな君の気持ちだけで、全ての物事に優劣をつけるのは、あまりにも勝手過ぎない?もっと周りの人間の世界を冷静に見るべきだよ。」

そういった西岡の表情が、携帯を数分いじった後、急にみるみる曇りだし、しばらくの間、携帯をじっと見つめていた。
俺は、固まって動かない西岡の顔を覗き込む。
携帯の電源を切る瞬間、携帯に写っていた西岡がじっと見つめていた画面を俺は偶然に見てしまった。

ハッキリと確認できなかったが、

女?の写真だった

女は、見るのも、近づくだけで蕁麻疹がでるっと言 っていた西岡が、なぜ、女なの写真なんか…


「あ…ごめん。つい、ぼーっとして、俺が自分の世界の時間の中に入り込んでたよ。」

「すいません。俺、さっき、西岡さんの携帯の画面、偶然見ちゃって、その…」

俺には、その時、西岡が、一瞬、何か知られてはいけないものを見られて、焦った表情をしたように見えた。

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