本当は怖い愛とロマンス

言葉より先に俺は、孝之の胸倉を掴んでいた。

「お前、俺に、なんの恨みがあって！」

激しい嫉妬と憎しみが入りまじった強い怒りだとはっきりとわかっていた。
走馬灯の様に、死んだ渚の顔が俺の頭に浮かんでは消えていた。

「俺は、お前が…好きだった！ずっと前から、お前が好きだったんだ。お前が誰かのものになるのが絶えられなかったんだよ！」

俺は、孝之を感情のままに殴りつけた。

口から血を吐き捨てながら、孝之は、俺を睨みつけて言った。

「俺は、お前が好きだから、お前の為に渚と寝たんだ！お前は、今の渚も昔の渚も2人がいなくなったおかげで、ここまでこれたんじゃないか？もし、あの時、昔の渚が生きてたら、お前は、子供の為にあくせく働いて、才能を開花させる事なんて、諦めてた。ただの平凡な男で終わってた！俺は、お前にそんな男で終わって欲しくなかった！」

「子供？何の事だよ？」

「渚は、妊娠してたんだよ。事故で死ぬ二週間前、俺に電話で相談してきたんだからな。」

「何で言わなかった？何でだよ！」

俺は、もう1発孝之の反対側の頬を殴りつけた。

「お前の為だよ！あの時、お前はオーディションも控えてた！渚の所に帰ってたら、スカウトされる事なんてなかった！渚もそれを解ってて、堕胎手術を受ける決心をしてたんだ。」

孝之の言葉が、どんどん俺の平常な判断を鈍らせていく。
孝之の胸倉から、手を離すと、俺は、ふらつきながら、横にあった酒の瓶を思いっきりカウンターに叩きつけた。

ガラスの欠片が床に散らばる。
俺は、カウンターに左手を置くと、血だらけで倒れている孝之にいった。

「なぁ、孝之、お前の言う好きって、どういう気持ちだ？」

もっているガラス瓶を左手に近づけていく。

「やめろ！佳祐！」

「孝之、俺は、渚が死んだ時、何もかもが空っぽになったんだ。この世界の地位や名誉や音楽なんて、どうでもいいって思えたんだよ。お前の俺への愛情なんて、俺は、糞食らえだ！全部、ぶっ潰してやるよ！」

そういって、俺は、割れたガラス瓶を左手めがけて、思いっきり振り上げた。

「そこまでだ。」

そういって、俺のガラス瓶を握る手を掴んだのは、丁度、店のドアが開いて入ってきた西岡だった。

抵抗する俺の腕から無理矢理ガラス瓶を引き離し地面に叩きつけて、粉々にすると、完全に正気を失った俺の腹を思いっきり、殴りつけた。

「今日だけは、男にならしてもらうよ。」

そう言って俺に、西岡が微笑みかけた笑顔を最後に、俺は、そのまま気を失った。