本当は怖い愛とロマンス
次に目を覚ますと、そこは、どこかに移動するタクシーの中だった。
横には、頬杖をつきながら窓の外の景色を見つめる西岡が、一番最初に目に飛びこんできた。
ラジオから聞こえる身に覚えのある歌が耳に聞こえてくる。
目を覚ました俺に気づいた西岡が笑いながら言った。
「どう?自分の歌で目を覚ます気分は?」
俺は、ズキズキ痛む頭を抱えながら言った。
「気分は最悪です。それに、俺が作った中で一番嫌いなんです。この曲。」
そう言った後、ふとさっきの出来事を思い出し、一層頭の痛みがひどくなり、俺は眉間にしわを寄せた。
そんな俺を横目で見ていた西岡は言った。
「君が辛いのは、よく解るよ。信じたいものに裏切られて、殺したいくらい宇野君を傷つけたいって気持ちも…何もかもぶっ壊したくなるきもちも。」
そう言った西岡は、一つ大きなため息をついた。
「事情を何も知らないあんたに何が解るんだよ!」
「事情は、宇野君から聞いたよ。彼も君と同じように、今みたいな興奮状態で落ち着かせるのに、随分と時間がかかったよ。彼自身はきっと、ずっと前から自分の身の振り方は、わかってる。ただ一つだけ、僕にも解る事がある。きっと、彼は不器用すぎた。だから、少し相手への愛し方を間違えてただけだよ。」
俺は、その西岡の言葉に咳を切ったように泣いていた。
今まで、我慢していた全ての気持ちが溢れだしたみたいだった。
どこかで、孝之の俺への気持ちを解放してやる事だってできたはずだった。
でも、俺は、俺だけに無償の愛をただ与え続けてくれる孝之を知らず知らずのうちに利用していた。
そんな孝之といるのが、心地良いとさえ思っていた時もあった。
「愛情は、与えるだけじゃ物足りなくなってくる。相手が絶対に自分に愛情を与えてくれないとわかっている相手なら、尚更愛情が欲しくてたまらなくなるんじゃないか。宇野くんは、ただ、君に幸せになって欲しかったと言ってた。やり方は、どうであれ、彼をあんなになるまで追い詰めたのは、君にも少なからず原因があるんじゃないか?」
俺は、その言葉に、涙を浮かべながら、ドアを何度も蹴りつけた。
「くそっ!なんで!なんで、なんで、今になって…」
「それは、本木くんが、『原田渚』という昔の彼女に似た女にもう一度恋をしたからじゃないか?どんな女にもなびかなかった男が、今じゃ、あの子の事になると、自分の事なんて、二の次だ。」
「孝之に…聞いたんですか?」
西岡は、目線をそらしたあと、どこか遠い目をして、窓の外を眺めていた。
「愛する人の影をおって、何になる?失ったものは、もどってはこないんだよ…」
「俺は、彼女を本気で!身代わりなんかじゃなく…本気で!」
「絶対にそうだと言い切れるか?君がおってるのは、二度と叶わない夢だ。彼女は、君の恋人なんかじゃない。本気で愛しているのは、恋人に似ている彼女じゃないだろ!君は、認められないだけだ。未だに、君は、毎日、他の女で悲しみや空虚感を誤魔化していた頃と何も変わっちゃいない。君は、恋人に似た彼女を愛そうとする事で、果たせなかった未来の時間を見た。違うか?」
「俺は…そんなんじゃない!」
俺は、西岡の言葉に首を横に振る。
「僕は、本木くんみたいな人間臭い人間は嫌いじゃないよ。まるで、昔の僕を見てるみたいで、ついほうっておけない。だから、助けたくなる。でも、現実を知るのは君が思っている以上に残酷だ。」
そう言うと、西岡は、何かを考えこんだようにまた大きなため息をつく。
「君や僕は普通の人とは違う。普通の人が普通と感じる事を究極の幸せだと僕達は感じる事もある。でも、僕や君のような人に普通の人は憧れや夢を見る。本木君は、夢を与え続けなければいけない側の人間なんだよ。人によって、幸せの尺度は違うけれど、君の歌を聞いて幸せを感じて救われる人間もいるって事をどうか忘れないでほしい。君が怒りにまかせてしたさっきの行動は、色んな人を巻き込んで幸せにも不幸にもする。君が知らない人間にも少なからず影響を与えているという意味をもう少し考えた方が良い。過去は二度ともどってはこないが、これからの未来はどんな風向きにも変わるんだ。」
そう言った西岡の言葉に俺は何も答える事ができなかった。
現実は傷ついた人間の事なんて御構い無しに、俺たちの前をただ通り過ぎていく。
渚がおれに昔言っていた事を俺は思い出していた。
時間は無限にあるように見えて、実は限りがあるという事。
だから、精一杯自分の悔いのないように大切な人との時間を大切にしたいと彼女は笑顔で俺に話していた。
俺は、渚がいなくなった時、永遠という時間に絶望した。
この世に永遠なんてあるはずないと解っていたのに。
笑顔の奥で傷ついていた渚にも気付かずに俺はスポットライトを目指していた。
なのに、今の俺はそのスポットライトを浴びる自分に疑問さえ感じるんだ。
その自分と引き換えにもう一度渚の愛情に包まれたいと願うそんな馬鹿な考えさえ浮かんでくる。
俺は、確かに西岡の言う通り、渚に似た彼女に未来を見たんだ。
愛されると言う喜びと失った時間を渚に似た彼女なら俺は忘れられると思った。
一生消えない傷を彼女なら受け入れてくれると思ったんだ。
きっとこれは愛情ではない。
俺は…きっと。
天井を見上げて口元を緩めた。
そして、俺は言った。
「西岡さん、俺は長い夢を見てたみたいです。きっとずっと悪い夢を見ていたんだ。今は恐いくらい頭がスッキリしてる。」
そう言った俺の横顔を一瞬悲しい目をして見た西岡は、肩を軽くポンポンと叩いた。
その瞬間長い間渋滞に巻き込まれていたタクシーが嘘みたいに渋滞から抜けていた。
長く長く連なる赤い電灯は早いくらい散らばっていってはまた新しい電灯が近づいてくる。
その電灯が顔に反射して通り過ぎて行くたび、俺の目から涙が溢れ落ちる。
何もかもどうなっても良いとさえ俺は思った。
覚めない夢ならきっと明日も明後日も俺をどうか夢の中に彷徨わせてほしい。
そして、夢の中でもいいから、俺の方を向いて笑う君がみたい。
それがたとえ歪んだ愛情だとしても。
横には、頬杖をつきながら窓の外の景色を見つめる西岡が、一番最初に目に飛びこんできた。
ラジオから聞こえる身に覚えのある歌が耳に聞こえてくる。
目を覚ました俺に気づいた西岡が笑いながら言った。
「どう?自分の歌で目を覚ます気分は?」
俺は、ズキズキ痛む頭を抱えながら言った。
「気分は最悪です。それに、俺が作った中で一番嫌いなんです。この曲。」
そう言った後、ふとさっきの出来事を思い出し、一層頭の痛みがひどくなり、俺は眉間にしわを寄せた。
そんな俺を横目で見ていた西岡は言った。
「君が辛いのは、よく解るよ。信じたいものに裏切られて、殺したいくらい宇野君を傷つけたいって気持ちも…何もかもぶっ壊したくなるきもちも。」
そう言った西岡は、一つ大きなため息をついた。
「事情を何も知らないあんたに何が解るんだよ!」
「事情は、宇野君から聞いたよ。彼も君と同じように、今みたいな興奮状態で落ち着かせるのに、随分と時間がかかったよ。彼自身はきっと、ずっと前から自分の身の振り方は、わかってる。ただ一つだけ、僕にも解る事がある。きっと、彼は不器用すぎた。だから、少し相手への愛し方を間違えてただけだよ。」
俺は、その西岡の言葉に咳を切ったように泣いていた。
今まで、我慢していた全ての気持ちが溢れだしたみたいだった。
どこかで、孝之の俺への気持ちを解放してやる事だってできたはずだった。
でも、俺は、俺だけに無償の愛をただ与え続けてくれる孝之を知らず知らずのうちに利用していた。
そんな孝之といるのが、心地良いとさえ思っていた時もあった。
「愛情は、与えるだけじゃ物足りなくなってくる。相手が絶対に自分に愛情を与えてくれないとわかっている相手なら、尚更愛情が欲しくてたまらなくなるんじゃないか。宇野くんは、ただ、君に幸せになって欲しかったと言ってた。やり方は、どうであれ、彼をあんなになるまで追い詰めたのは、君にも少なからず原因があるんじゃないか?」
俺は、その言葉に、涙を浮かべながら、ドアを何度も蹴りつけた。
「くそっ!なんで!なんで、なんで、今になって…」
「それは、本木くんが、『原田渚』という昔の彼女に似た女にもう一度恋をしたからじゃないか?どんな女にもなびかなかった男が、今じゃ、あの子の事になると、自分の事なんて、二の次だ。」
「孝之に…聞いたんですか?」
西岡は、目線をそらしたあと、どこか遠い目をして、窓の外を眺めていた。
「愛する人の影をおって、何になる?失ったものは、もどってはこないんだよ…」
「俺は、彼女を本気で!身代わりなんかじゃなく…本気で!」
「絶対にそうだと言い切れるか?君がおってるのは、二度と叶わない夢だ。彼女は、君の恋人なんかじゃない。本気で愛しているのは、恋人に似ている彼女じゃないだろ!君は、認められないだけだ。未だに、君は、毎日、他の女で悲しみや空虚感を誤魔化していた頃と何も変わっちゃいない。君は、恋人に似た彼女を愛そうとする事で、果たせなかった未来の時間を見た。違うか?」
「俺は…そんなんじゃない!」
俺は、西岡の言葉に首を横に振る。
「僕は、本木くんみたいな人間臭い人間は嫌いじゃないよ。まるで、昔の僕を見てるみたいで、ついほうっておけない。だから、助けたくなる。でも、現実を知るのは君が思っている以上に残酷だ。」
そう言うと、西岡は、何かを考えこんだようにまた大きなため息をつく。
「君や僕は普通の人とは違う。普通の人が普通と感じる事を究極の幸せだと僕達は感じる事もある。でも、僕や君のような人に普通の人は憧れや夢を見る。本木君は、夢を与え続けなければいけない側の人間なんだよ。人によって、幸せの尺度は違うけれど、君の歌を聞いて幸せを感じて救われる人間もいるって事をどうか忘れないでほしい。君が怒りにまかせてしたさっきの行動は、色んな人を巻き込んで幸せにも不幸にもする。君が知らない人間にも少なからず影響を与えているという意味をもう少し考えた方が良い。過去は二度ともどってはこないが、これからの未来はどんな風向きにも変わるんだ。」
そう言った西岡の言葉に俺は何も答える事ができなかった。
現実は傷ついた人間の事なんて御構い無しに、俺たちの前をただ通り過ぎていく。
渚がおれに昔言っていた事を俺は思い出していた。
時間は無限にあるように見えて、実は限りがあるという事。
だから、精一杯自分の悔いのないように大切な人との時間を大切にしたいと彼女は笑顔で俺に話していた。
俺は、渚がいなくなった時、永遠という時間に絶望した。
この世に永遠なんてあるはずないと解っていたのに。
笑顔の奥で傷ついていた渚にも気付かずに俺はスポットライトを目指していた。
なのに、今の俺はそのスポットライトを浴びる自分に疑問さえ感じるんだ。
その自分と引き換えにもう一度渚の愛情に包まれたいと願うそんな馬鹿な考えさえ浮かんでくる。
俺は、確かに西岡の言う通り、渚に似た彼女に未来を見たんだ。
愛されると言う喜びと失った時間を渚に似た彼女なら俺は忘れられると思った。
一生消えない傷を彼女なら受け入れてくれると思ったんだ。
きっとこれは愛情ではない。
俺は…きっと。
天井を見上げて口元を緩めた。
そして、俺は言った。
「西岡さん、俺は長い夢を見てたみたいです。きっとずっと悪い夢を見ていたんだ。今は恐いくらい頭がスッキリしてる。」
そう言った俺の横顔を一瞬悲しい目をして見た西岡は、肩を軽くポンポンと叩いた。
その瞬間長い間渋滞に巻き込まれていたタクシーが嘘みたいに渋滞から抜けていた。
長く長く連なる赤い電灯は早いくらい散らばっていってはまた新しい電灯が近づいてくる。
その電灯が顔に反射して通り過ぎて行くたび、俺の目から涙が溢れ落ちる。
何もかもどうなっても良いとさえ俺は思った。
覚めない夢ならきっと明日も明後日も俺をどうか夢の中に彷徨わせてほしい。
そして、夢の中でもいいから、俺の方を向いて笑う君がみたい。
それがたとえ歪んだ愛情だとしても。