本当は怖い愛とロマンス
すると、そこには、ただ一行だけ、こう書かれていた。
7月15日 渋谷のカフェBLOOMで、昼の14時にお待ちしています。
第一印象は、日常茶飯事にある熱狂的なファンのものだと思った。
俺の個人情報を集めて喜ぶ、妄想と現実の境目がよくわからなくなるファンは、たまにいる。
でも、この手紙を書いた渚の名前を語っている女は、どこから俺と渚の事を知ったんだろう。
俺が、デビューする前に付き合っていた話なんか、特定の限られた人間しか解らないはずだ。
それに、7月15日って明日じゃないか…
俺は、手紙をソファの近くのテーブルに置くと、深いため息をついた。
それと同時にこんなファンの気味の悪い手紙に振り回されている自分が、あまりに馬鹿らしく思えて、笑ってしまった。
相手にするのはおかしい事だと最初から解っているはずだが、手紙の女が何を考えてこんな手紙を出してきたのかを興味本意でしりたい気持ちもあった。
何を考えてるんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
きっと、疲れてんだ、俺…
でも、俺は直ぐに正気に戻ると手紙を丸めてゴミ箱に捨て、倒れ込むようにベッドルームのベッドに寝転がると、そのまま眠りについた。
次の日の朝起きると、いつものように欠伸をしながら、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
そして、相変わらず、いつもの時間に慌ただしく中田がやってきた。
昨日と何も変わらない風景がそこにはあった。
朝から仕事をスケジュール通りこなし、次の現場まで、中田が運転する車で移動していた。
車のデジタル時計を見ると、昼の14時を少しまわっている。
そういえば、昨日の手紙には、時間は14時って書いてたよな…
渋谷っていえば、ここらへんだよな…
昨日の手紙の事が不意に頭をよぎっていた。
「本木さん、今日は、次の雑誌の取材まで少し時間あるし、昼飯、まだだし、スタジオ戻る前に、軽く、この辺で食べていきませんか?」
浮かない顔をして、後部座席で窓にもたれかかり、景色を見ながら、ほおずえを付いていた俺に、運転している中田がそんな事を言い出した。
よく考えてみれば、昨日の夜からあの手紙の事もあり、何も食べていない。
さすがに、腹減ったな…
「じゃ、ここらへんで、お前のオススメの店でも連れてってくれよ。」
俺がそう言うと、中田は、7分ほど車を走らせると、ある一件の店を見つけ、指差して言った。
「ここ、うまいんですよ。」
中田が指差した先の看板の名前を見ると、「BLOOM」と書いていた。
暫く看板をみながら、俺は、手紙にあった店の名前を思い出す。
たしか、手紙に書いてた店の名前も「BLOOM」だったよな…
そう勘付いた時には、駐車場に車を停めて、中田は真っ先に降りて、店のドアを開けようとした。
「おい、中田!」
その時、後ろで中田に追いついた俺は、咄嗟に呼び止めた。
中田は、扉の取っ手を握ったまま不思議そうな目で俺を見つめている。
「どうしたんですか?本木さん、急にそんな大声だして?」
「いや、俺、どうもこういう女が入るような店って、なんか苦手なんだよな…だからさ、ほら、ラーメン屋でもいかない?」
すると、中田は、そんな俺の言葉を聞いて、笑い出す。
「何、今更、恥ずかしがってるんですか?よくこのBLOOMって店で、僕が、買ってくるサンドウィッチの差し入れ食べて、美味いって言いながら、店で食べてみたいって、この前言ってたじゃないですか?それ、ここなんですよ。ここまできて、また店探すのも時間かかりますし、今日は、僕の行きたいとこで良いって言ったんですから、付き合ってもらいますよ。」
中田は、嫌がる俺の腕を無理矢理掴むと、店のドアを開けた。
店内は、比較的、広くて、席も多く完備されていた。
客層は、カップルというよりは、一人で座っている客の方が目立っていた。
俺が入ってきた瞬間、何人かの客が俺の方に音の条件反射なのか、視線を向けていた。
店の中に女は全部で五人、一人だけで座っている女は三人いた。
その中には、本を読んでいたり、携帯のメールに夢中になったり、待ち合わせなのか時計をしきりに確認する怪しい奴もいた。
この中に、あの手紙を出した女がいるんだ…
でも、手紙の約束なんか守る気なんてなかったのに、なんて余計な事してくれたんだよ。
そう思い、目の前で、常連なのを知っているのか、店員と中田の親しげに楽しく話している姿をイライラしながら、睨みつけた。
店員に空いている店の比較的目立たない奥の席に案内され、席に着くと、俺は、キョロキョロしながら、三人の女の動きに注意しながら、見入る。
すると、目の前に座っている中田が、メニュー表を真剣に見ながら言った。
「本木さん、何キョロキョロしてるんですか?怪しすぎるでしょ。俺が店員に頼んで、目立たない席にしてもらった意味なくなるでしょ!」
「いや、なんか落ち着かなくてな。やっぱりさ、こういう店入ると、妙に緊張するよなー…」
そう言って、苦笑いして誤魔化した。
7月15日 渋谷のカフェBLOOMで、昼の14時にお待ちしています。
第一印象は、日常茶飯事にある熱狂的なファンのものだと思った。
俺の個人情報を集めて喜ぶ、妄想と現実の境目がよくわからなくなるファンは、たまにいる。
でも、この手紙を書いた渚の名前を語っている女は、どこから俺と渚の事を知ったんだろう。
俺が、デビューする前に付き合っていた話なんか、特定の限られた人間しか解らないはずだ。
それに、7月15日って明日じゃないか…
俺は、手紙をソファの近くのテーブルに置くと、深いため息をついた。
それと同時にこんなファンの気味の悪い手紙に振り回されている自分が、あまりに馬鹿らしく思えて、笑ってしまった。
相手にするのはおかしい事だと最初から解っているはずだが、手紙の女が何を考えてこんな手紙を出してきたのかを興味本意でしりたい気持ちもあった。
何を考えてるんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
きっと、疲れてんだ、俺…
でも、俺は直ぐに正気に戻ると手紙を丸めてゴミ箱に捨て、倒れ込むようにベッドルームのベッドに寝転がると、そのまま眠りについた。
次の日の朝起きると、いつものように欠伸をしながら、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
そして、相変わらず、いつもの時間に慌ただしく中田がやってきた。
昨日と何も変わらない風景がそこにはあった。
朝から仕事をスケジュール通りこなし、次の現場まで、中田が運転する車で移動していた。
車のデジタル時計を見ると、昼の14時を少しまわっている。
そういえば、昨日の手紙には、時間は14時って書いてたよな…
渋谷っていえば、ここらへんだよな…
昨日の手紙の事が不意に頭をよぎっていた。
「本木さん、今日は、次の雑誌の取材まで少し時間あるし、昼飯、まだだし、スタジオ戻る前に、軽く、この辺で食べていきませんか?」
浮かない顔をして、後部座席で窓にもたれかかり、景色を見ながら、ほおずえを付いていた俺に、運転している中田がそんな事を言い出した。
よく考えてみれば、昨日の夜からあの手紙の事もあり、何も食べていない。
さすがに、腹減ったな…
「じゃ、ここらへんで、お前のオススメの店でも連れてってくれよ。」
俺がそう言うと、中田は、7分ほど車を走らせると、ある一件の店を見つけ、指差して言った。
「ここ、うまいんですよ。」
中田が指差した先の看板の名前を見ると、「BLOOM」と書いていた。
暫く看板をみながら、俺は、手紙にあった店の名前を思い出す。
たしか、手紙に書いてた店の名前も「BLOOM」だったよな…
そう勘付いた時には、駐車場に車を停めて、中田は真っ先に降りて、店のドアを開けようとした。
「おい、中田!」
その時、後ろで中田に追いついた俺は、咄嗟に呼び止めた。
中田は、扉の取っ手を握ったまま不思議そうな目で俺を見つめている。
「どうしたんですか?本木さん、急にそんな大声だして?」
「いや、俺、どうもこういう女が入るような店って、なんか苦手なんだよな…だからさ、ほら、ラーメン屋でもいかない?」
すると、中田は、そんな俺の言葉を聞いて、笑い出す。
「何、今更、恥ずかしがってるんですか?よくこのBLOOMって店で、僕が、買ってくるサンドウィッチの差し入れ食べて、美味いって言いながら、店で食べてみたいって、この前言ってたじゃないですか?それ、ここなんですよ。ここまできて、また店探すのも時間かかりますし、今日は、僕の行きたいとこで良いって言ったんですから、付き合ってもらいますよ。」
中田は、嫌がる俺の腕を無理矢理掴むと、店のドアを開けた。
店内は、比較的、広くて、席も多く完備されていた。
客層は、カップルというよりは、一人で座っている客の方が目立っていた。
俺が入ってきた瞬間、何人かの客が俺の方に音の条件反射なのか、視線を向けていた。
店の中に女は全部で五人、一人だけで座っている女は三人いた。
その中には、本を読んでいたり、携帯のメールに夢中になったり、待ち合わせなのか時計をしきりに確認する怪しい奴もいた。
この中に、あの手紙を出した女がいるんだ…
でも、手紙の約束なんか守る気なんてなかったのに、なんて余計な事してくれたんだよ。
そう思い、目の前で、常連なのを知っているのか、店員と中田の親しげに楽しく話している姿をイライラしながら、睨みつけた。
店員に空いている店の比較的目立たない奥の席に案内され、席に着くと、俺は、キョロキョロしながら、三人の女の動きに注意しながら、見入る。
すると、目の前に座っている中田が、メニュー表を真剣に見ながら言った。
「本木さん、何キョロキョロしてるんですか?怪しすぎるでしょ。俺が店員に頼んで、目立たない席にしてもらった意味なくなるでしょ!」
「いや、なんか落ち着かなくてな。やっぱりさ、こういう店入ると、妙に緊張するよなー…」
そう言って、苦笑いして誤魔化した。