本当は怖い愛とロマンス
あの日から、俺は彼女には会っていない。
ツアーの最終日の為に俺は福岡から東京に飛行機で向かっていた。

窓に映る雲を見て、俺はあの日の西岡の話を思い出していた。

「彼女の名前は渚じゃない。本当の名前は谷垣恵里奈。谷垣の娘だよ。」

その言葉に俺は全身の力が抜けて床に崩れ堕ちていた。

「小さい頃、何度か会った事があったから恵里奈の顔は知っていたけど。面接を受けにきた時は名前も顔も違っていたから気づかなかったんだ。でも、谷垣に君から目を離すなと言われて、君と関わるうちに彼女にぶち当たった。」

西岡はある病院の資料を机の上にぶちまけた。

「探偵に頼んで調べてもらった。恵里奈は7年前そこの病院で整形手術をしたんだ。そこの資料に挟んである写真の君の昔の死んだ彼女の渚さんと同じ顔にしてくれってな。今回の君を殺そうとした計画の為にしては、たちが悪すぎる。他の2人に同情したとしても、顔を変えてまで計画に協力する理由が恵里奈には見当たらないからね。」

「じゃ、なんで!?」

俺は、立ち上がり机に手を置いて身を乗り出して、西岡に怒りを露わにした。

「さあ。それは俺にもさっぱりだよ。ずっと家出した恵里奈を探していたのは谷垣も一緒さ。まさか顔を変えてたって知った時は言葉を失ってたからね。だから、熱をあげてた君を自分の娘の恵里奈から父親心で遠ざけようとしたんじゃないかって。小さい頃に心臓が良くなくてかもともと身体も丈夫な方じゃなかったからね、それに谷垣は誰よりも恵里奈を可愛がってたし。」

西岡はそう言い終えると言った。

「谷垣を攻めるのはやめてやってね。谷垣は本当は君と同じ人間なんだ…」

西岡のその言葉を聞いた時、西岡と孝之を重ねていた自分に気付いた。
きっと西岡にとって、谷垣は孝之にとっでの俺の様な存在だったのではないかと話を聞かなくても表情や仕草で解った。

俺は、彼女に会った時から始まった不思議な気持ちとずっと変わらなかった日常が、彼女が現れた事によって何もかも変わってしまった。
それは、きっと俺は胸を焦がすくらい彼女に恋をして、現実が見えなくなるくらい狂わせられたのだと思っていた。

彼女の本当の姿が見えなくなるくらい、俺は彼女に惹かれた。

誰かが誰かの幸せを願ったり大切に思うほど運命は味方にはなってはくれないのだと今の俺は思う。

それは、きっと自分自身がみんな誰よりも可愛いからだ。

傷ついたり、それ以上相手の気持ちや本音を知る事を恐れている。

俺もその1人だ。

窓から目をそらすと俺は目を閉じた。

今は眠りについて全てを忘れる時間が欲しかった。









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