本当は怖い愛とロマンス
朝の光が窓に差し込み、眩しさで思わず目が覚めた。
昨日の誕生日だった夜の終わらない宴の残額は、俺の部屋に広がっていた。
空き瓶とソファで寝息を立てる孝之とビール瓶を抱き枕がわりに眠る奈緒の姿だった。
俺は、二人の姿を見て、思わず吹き出して笑う。
今まで何かをごまかして忘れるようにひたすらに、日々を過ごしてきた。
スケジュールがタイトだった為か何も考えずに済んだのも確かだった。
でも、意識を失うように朝まで眠りについたのは、久しぶりだった。
俺は、二人に救われたような気がしていた。
俺の笑い声に目を擦りながら、大きな欠伸をして奈緒が目を覚ます。

「何、朝から1人で笑ってんの?きみ悪い。」

「別に。笑ってなんかないよ。」

そんな俺と奈緒の小競り合いに眠っていた孝之も目を覚ます。

そして、孝之が俺達を相変わらずなだめる。

そんな時間がいつまでも続けばいい。
苦しい事や傷つく事なんて忘れたまま、何も考えず、ただ楽しく笑いあう何もない日常が続けばいい。
また前のように、孝之と奈緒と過ごす時間や擬似恋愛ごっこを過ごす俺に戻れば、きっと何もかもが上手くいく。
今まで、俺はそれで充分に幸せだったのだから。


「しょうがないからおまえ達にもやるよ。もともとおまえ達に渡すつもりだったけど、タイミング合わなかったからな。」

そう言って、俺は今日のツアーの最終日のチケットを2人に渡した。

喜んでいる二人を目の前で見ているとほっとしている自分がいた。

俺達の三人の溝が綺麗に埋まっていくように感じたからだ。

「ってか、佳祐、時間やばくないか?もう11時過ぎてるぞ。そろそろリハーサル始まる時間だろ?」

孝之の言葉に不意に俺は家の時計を見て、血相を変えて慌てて服を着替えた。
鍵を孝之に放り投げると、「あとはよろしく頼む」といって、ガレージから自分の車を出して、急いで会場に向かった。
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