本当は怖い愛とロマンス
谷垣はソファに座りながら足を組み変え、何もさっきの事を弁解しようとする素振りさえも見せない。
その態度とは、逆に俺の方が状況を飲み込めず、裁判にかけられる容疑者のような気分だった。

でも、さっきの谷垣の態度を見ると怒りが込み上げ、その感情が俺を突き動かしていた。

「あんたの愛情は狂ってるよ。恵里奈はあんたの私有物なんかじゃない。」

その言葉に谷垣は声を上げて笑い出した。

「俺だって、お前の言う良い父親として愛されたかったさ。でも、恵里奈を娘として、愛せば愛すほど偽りの自分の姿に嫌気がさすんだ。愛する女の娘が成長する度に愛する女に近づいていく。そしていずれは俺ではなく、違う男と去っていく恵里奈を想像すると、どうしようもない怒りと絶望感が俺を襲った。だから、ある時思ったんだよ。そんな偽りのいい父親の自分で愛されるより本当の自分の姿を曝け出して、憎まれるならその方がよっぽど良いってな。」

谷垣の考えはエゴだ。
きっと、自分は自分でいたいと思うばかりで、相手の事など微塵も考えてはいない。
また、谷垣も西岡と同じ様に自分の過去に捕らわれていた。
お互いが苦しめあう愛情など、与えるのに何の意味があるのだろう。
それは愛情などではなく、ただ、自分の欲で、自分をコントロールできていないだけだ。

「憎しみから生まれる愛情なんてない。もし、あるとしたら、それは愛情じゃなく同情だ。あんたと恵里奈を繋いでるのは、親子だという事実だけだ。それ以上でもそれ以下でもない。あんたはそんな事で恵里奈を縛りつけて満足か?」

谷垣は俺の言葉に咄嗟に「うるさい!」と怒鳴りつけ、俺の胸ぐらをつかんだ。

「あんただって気づいてるんだろ?こんな事続けても、自分が本当に望むような結果には、この先もずっとならないんだって?」

谷垣は、俺の言葉に感情を抑えきれずに目を潤ませ泣いていた。
ずっと、自分の間違いには気づいていたはずだった。
でも、戻れないところまできてしまった今、戻る事なんて自分自身では今更できない。

「俺は.....ただ…」

谷垣は言葉にならずに、ゆっくりと俺の胸ぐらから手を離し、床に崩れ落ちた。
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