本当は怖い愛とロマンス
「本当に本木さん、一緒にはいかなくていいんですか?」

車から運転席の窓を開け、龍之介は病院に送って行く前に、そう何度も聞いた。

「馬鹿野郎!何度も同じ事聞くな!」

俺は顔だけ出していた龍之介の頭を軽く叩いた。
龍之介はわざとらしく痛がりながら、窓ガラスを閉めると車のエンジンをかけた。
俺の前を通り過ぎた車の後部座席の窓は、スモークガラスがかかっており、恵里奈の顔は見えなかった。
内心ホッとした自分がいた。
小さくなっていく車が見えなくなるまで、俺はただ呆然と立ち尽くしていた。

その次の日、会社が出したマスコミへのFAXのニュースがテレビでは朝から持ちきりだった。
今まで、ゴシップネタを極力避けてきた俺にとっては、マスコミの恰好の的になったのだ。
ニュースの翌日、龍之介は朝から事務所にかかってくる電話対応に追われているらしく、夕方にまた迎えにくると言うと、足早に事務所に帰っていった。
龍之介が帰った後、リビングのソファーに座り、さっき手渡された束のファンレターを1つづつ自宅で目を通していく。
あんなに毎日チェックしていたファンレターも今では目を通す機会も減っていた。
今回の事でひどい誹謗中傷まがいの言葉も欄列していたり、ひどくがっかりした、ショックを受けたと言う様なニュアンスの言葉が何枚もの手紙に書かれていた。
全ての手紙を読み終えた後、俺は深いため息をつき、頭を抱えてソファーに身を委ねた。

自分の意思では自宅から一歩も出られず、相変わらずマスコミの数は増える一方だ。
現実から逃げるように、俺は酒の瓶に手を伸ばす。
それからソファーで寝てしまい、目が覚めた時には、夕方の3時を回っていた。
携帯を見ると、龍之介からの着信履歴何回か入っていたのと15分前に登録のない番号からの着信が一回あった。
たまに仕事の電話で相手先から直接電話がある事があり、その電話も今回ドラマの曲の事で直接、脚本家が俺に話す為に電話してきたのだと思った。
ズキズキ痛む頭を抑えながら、冷蔵庫のミネラルウオーターのペットボトルを取り出し、キャップを開けながら、最初に龍之介に電話をかけた。

「あー、俺だ。聞きたいんだけどさ、前にお前に渡したドラマの曲の件、どうなった?さっき、知らない番号から電話があったから気になってな。」

「今回のドラマの曲の件なんですが…イメージと本木さんの曲はマッチしててすごい気に入ってくれてたんですが、脚本家から今日、電話があって、今回の騒動が収集がつくまで本木さんの曲は使えないって言われまして…」

最悪だ。

俺は、軽く舌打ちをしてテーブルを思いっきり握り締めた拳で叩くと、龍之介に「解った」と静かに呟いた。

タバコに火をつけると、電話を切った後すぐに登録されていない電話番号に電話をかけた。
俺は龍之介に電話番号も確認せずに、はやる気持ちを吐き出す為だった。
俺が直接今回の件について脚本家と話し合う事で、状況が変わるかもしれないとも思ったのだ。
何回目かのコールの後、電話が繋がる。

「もしもし、本木です。今回のドラマの曲の件の事なんですが…」

言葉を続けようとした時だった。

「もしもし…けいちゃん?」

その声は、あの日以来会っていなかった奈緒の声だった。





















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