本当は怖い愛とロマンス
雨の夜、そう俺がスカウトされたきっかけになったライブハウスでライブをしていたあの日。
谷垣が家に帰った時、タイミング悪く西岡と奥さんの決定的な場面を目撃してしまった。
奥さんはその時、2人目の子供を妊娠していた。
つまり、恵里奈の妹だった。
2人の姿に逆上した谷垣は、西岡を殴りつけ家を出て行こうとしていた。
そんな谷垣を止めようとする奥さんと必死に揉み合ううちにつき飛ばされた拍子に奥さんは頭を打ちつけ、血を流し意識を失った。
それを近くでこっそりと目撃していたまだ小学生だった恵里奈はその現場を見てショックを受け泣きだし、心臓発作を起こして倒れた。
それを目にし、パニック状態になった谷垣を西岡は落ち着かせ、2人を直ぐに病院に運ぶように促した。
谷垣は都会から少し離れた田舎町に住んでいたと聞いていた。そうその町は、俺が住んでいた田舎町だったんだ。
パニック状態の谷垣が運転した車は焦る気持ち同様に規格外の猛スピードで道を走っていた。
その瞬間は一瞬だった。
ドンという鈍い音と共に何かを踏んづけた感覚があったのは。
でも、車から降りて助けようとする谷垣を止めたのは西岡だった。
車の後部座席には、一刻の命も争う奥さんの姿と苦しそうな顔をする恵里奈の姿があったからだ。
なんとか2人とも病院に運んだが、奥さんはいつ亡くなってもおかしくない状況だと宣告された。
そして、恵里奈は突然のストレスによる心臓発作で弱っている心臓にさらに負担がかかり一刻も争う状況だった。
「そこに、急患が入ったんだ。彼女はドナー登録をしていた。」
西岡が再びタバコに火をつける。
西岡の言葉に俺の胸は、いつにも増して速さを増していた。
その話の結末が俺は読めていたからだ。
俺の愛する者を奪った人間が目の前にいる。
そう思うだけで、気がおかしくなりそうなほど怒りがこみ上げた。
ずっと探していた。諦めかけたりもした。
ぶつけたかった怒りの感情の矛先。
それが目の前にいる。
「俺は、ずっと自分を攻め続けてきた。渚が死んだあの日から。ずっと幸せに出来なかった俺には誰かを愛する資格なんてないって思って生きてきた。怒りをどこにぶつけていいかもわからなかったんだ。その矛先がこんな近くにいたなんてな!」
俺は、怒りを抑えられずに西岡の胸ぐらを掴み、泣いていた。
何も言わない西岡を俺はただがむしゃらに殴りつけた。
俺は怒りと憎しみで頭が真っ白だった。
意識が朦朧とした顔で西岡は口から血を吐き出しながら虚ろな目をして俺に言った。
「頼む。俺を殺してくれ…君に真実を話したのは、俺も谷垣のとこに送ってほしかったからだ。」
西岡の一言で、俺は我にかえり握った拳を緩めた。
ぐっと奥歯を噛み締め、振り上げていた手を下ろす。
「俺は、あんたを今すぐ殺してやりたい位憎いよ…でも、人の命を勝手に奪う権利なんて誰にもないんだよ!」
人は強くなんかなく、弱くて脆い。
自分を守ろうとしたり、自分と同じ境遇の人間同士が寄り添い合う。
そうやって、傷を舐め合う事で自分達の生きている意味を探してる。
誰かの命を奪うのは簡単な事だ。
でも、悲しみの中でただ何もなく生きていく事こそが、人が生きていく上で最大の苦しみだという事を俺は解っていた。
谷垣が家に帰った時、タイミング悪く西岡と奥さんの決定的な場面を目撃してしまった。
奥さんはその時、2人目の子供を妊娠していた。
つまり、恵里奈の妹だった。
2人の姿に逆上した谷垣は、西岡を殴りつけ家を出て行こうとしていた。
そんな谷垣を止めようとする奥さんと必死に揉み合ううちにつき飛ばされた拍子に奥さんは頭を打ちつけ、血を流し意識を失った。
それを近くでこっそりと目撃していたまだ小学生だった恵里奈はその現場を見てショックを受け泣きだし、心臓発作を起こして倒れた。
それを目にし、パニック状態になった谷垣を西岡は落ち着かせ、2人を直ぐに病院に運ぶように促した。
谷垣は都会から少し離れた田舎町に住んでいたと聞いていた。そうその町は、俺が住んでいた田舎町だったんだ。
パニック状態の谷垣が運転した車は焦る気持ち同様に規格外の猛スピードで道を走っていた。
その瞬間は一瞬だった。
ドンという鈍い音と共に何かを踏んづけた感覚があったのは。
でも、車から降りて助けようとする谷垣を止めたのは西岡だった。
車の後部座席には、一刻の命も争う奥さんの姿と苦しそうな顔をする恵里奈の姿があったからだ。
なんとか2人とも病院に運んだが、奥さんはいつ亡くなってもおかしくない状況だと宣告された。
そして、恵里奈は突然のストレスによる心臓発作で弱っている心臓にさらに負担がかかり一刻も争う状況だった。
「そこに、急患が入ったんだ。彼女はドナー登録をしていた。」
西岡が再びタバコに火をつける。
西岡の言葉に俺の胸は、いつにも増して速さを増していた。
その話の結末が俺は読めていたからだ。
俺の愛する者を奪った人間が目の前にいる。
そう思うだけで、気がおかしくなりそうなほど怒りがこみ上げた。
ずっと探していた。諦めかけたりもした。
ぶつけたかった怒りの感情の矛先。
それが目の前にいる。
「俺は、ずっと自分を攻め続けてきた。渚が死んだあの日から。ずっと幸せに出来なかった俺には誰かを愛する資格なんてないって思って生きてきた。怒りをどこにぶつけていいかもわからなかったんだ。その矛先がこんな近くにいたなんてな!」
俺は、怒りを抑えられずに西岡の胸ぐらを掴み、泣いていた。
何も言わない西岡を俺はただがむしゃらに殴りつけた。
俺は怒りと憎しみで頭が真っ白だった。
意識が朦朧とした顔で西岡は口から血を吐き出しながら虚ろな目をして俺に言った。
「頼む。俺を殺してくれ…君に真実を話したのは、俺も谷垣のとこに送ってほしかったからだ。」
西岡の一言で、俺は我にかえり握った拳を緩めた。
ぐっと奥歯を噛み締め、振り上げていた手を下ろす。
「俺は、あんたを今すぐ殺してやりたい位憎いよ…でも、人の命を勝手に奪う権利なんて誰にもないんだよ!」
人は強くなんかなく、弱くて脆い。
自分を守ろうとしたり、自分と同じ境遇の人間同士が寄り添い合う。
そうやって、傷を舐め合う事で自分達の生きている意味を探してる。
誰かの命を奪うのは簡単な事だ。
でも、悲しみの中でただ何もなく生きていく事こそが、人が生きていく上で最大の苦しみだという事を俺は解っていた。