本当は怖い愛とロマンス
テラスの椅子に座り、ただ何をする訳でもなく、タバコを吸って、人生の思い出にふけりながらウィスキーを口に運ぶ。
何時間経っただろうか…辺りは真っ暗になり腕時計に目をやると夜の9時を回っていた。
俺はテラスから家の中に入ると、溜息をつきながら持ってきたスーツケースの鍵を開けようと、手を伸ばした時だった。

家のチャイムが急いだ様に何度も鳴り響く。

最初は無視していたが、何度もしつこく鳴らすそのチャイムの音に舌打ちをしながら、玄関に向かった。
玄関のドアの鍵を開けると、そこに立っていたのは、涙をいっぱい溜め、息を上がらせた恵里奈だった。
恵里奈は俺の姿を見るなり、号泣し玄関先でかがみ込んだ。

「よかった…。」

そう呟いた恵里奈に俺は、ぶっきらぼうに腕を掴むと力任せにソファに座らせた。

「何しに来た?」

俺は冷たい目で恵里奈を見つめていた。
もう、俺の目に彼女へ優しくする気持ちの余裕は残ってはいなかった。
二人の間に確かにあった愛情のかけらを拾い集め、俺に思い出させるかの様に恵里奈は俺をただ真っ直ぐ見つめていた。

「増田さんに事件の話で呼び出されたんですけど、本木さんの様子がおかしくて心配だって話聞いたら、私、居場所を聞いてここに…」

俺は恵里奈から視線を直ぐに逸らすと、頭を抱え溜息をつく。

「帰れ…」

そう冷たく言いながら、俺はスーツケースの鍵を開けた。

「私は…」

もう言い訳や嘘はうんざりだった。
そんな現実に一喜一憂する自分にも。

「 言い訳はいらない…俺に何を期待してる?期待されても、もう、俺はお前に何もしてやれない。」

俺はスーツケースから銃を取り出し、自分の頭のこめかみに銃口を突きつけると、真っ直ぐに恵里奈を見て言った。

恐怖で手が震えているのが自分でも解った。
恐くて堪らないのは当たり前だ。
でも、恐怖に支配された俺の目に映る渚に似た恵里奈がいる事で妙な感覚に陥る。
まるで天国にいる渚が俺を迎えにきたのだと思えた。

「渚…迎えにきてくれたんだね…」

俺は、泣きながら恵里奈を見つめて、そう言った。

突きつけられた銃口が焦点が定まらずに震えていた。



















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