神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


「では、改めて皆さん おはよーございます」


ペコリと三つ指ついて朝のあいさつをする詩織。


大袈裟だ。



それに付け加え


「あ、それと朝からお騒がせしました。すみません」


再度 三つ指をつけ 謝る。




そんな詩織の畏まりすぎた様子に


「あー宮野さんは謝らなくていいの!
悪いのは全部左之さんなんだから!」



狼狽えながら答える藤堂。



「それに気づかなかった俺らも悪いからな」


「だから気にすんなって宮野!」


...きっと彼らなりの励ましの言葉なのだろう。



三人の口からそんな言葉が続いた。




なんだか胸があったかくなった。


「ふふっ 皆さんありがとうございます」


そう言って ニコッと微笑む詩織の姿はまるで天使のようだ、と 三人は心の中で思った。



もちろん三人にそう思われているなんて詩織は全くといって知らない。



だからか ボケーっとする三人に驚き


「...そんなに連れていかれた原田さんが心配ですか?」


見当違いの方向に話が向かった。





途端に苦笑いへと変わる三人。


「それもそうだが...」


「僕たちはそんなことよりも み、宮野さんが ─── 」


「私が...どうしたんです?」



詩織に遮られ、勢いに乗せて言うことができずに困ったのか顔を真っ赤にして俯き 何かを言い淀む藤堂。


「...言えねぇなら最初から口に出すな」


そんな藤堂の頭に永倉の手刀が綺麗に入った。




うわっ、今のかなり痛そ〜


なんて心の中で哀れむ詩織。




元々は詩織が原因なのだが。




そんな当の本人はといえば...


布団の上に座り、ニコニコと微笑んでいる。


不自然なくらいに。



恐る恐るといった様子で 藤堂が尋ねる。


「宮野さん、何かいいことでもありましたか?」


「いえ、皆さん仲がいいんだなぁと思っただけですよ〜」


笑顔で続ける詩織。



「...それどこの場面を見ての話ですか!?」


驚きツッコんだ藤堂。



「今の場面もですが?」


詩織がそんな言葉を続けると ハァと軽いため息を藤堂はついた。



そして立ち上がりポンポンと服を払うと


「そんなことより布団片付けましょうか」

話を逸らすことに決めたよう。



はぁい だなんてやる気のない返事たちが藤堂に返る。



なんだかんだと賑やかに布団揚げを終える四人。


そして、堂々と詩織の目の前で着替え始めようとしていた男三人衆。




「って、ちょっと待ってください!」



止める詩織。





だが、


「あ゛?どうした?」


手は止めずに答える永倉。




「わ・た・し!女です!ここにまだいます!!」


せめてもの抵抗と声を張り上げる。




それを


「そんなことか。
なら、出て待ってろよ」


サラっと答えられた。
何でもないことのように。



そしてポイッと部屋の外へと追い出された。




無言で立ちすくむ詩織。


プルプルと震えている。


これは泣くのか?




そう思われた時


「それより私の服はどうすればいいんですかー!?」


いや、詩織はただ怒っているようだ。




部屋から返事は返ってこない。




詩織の叫びはなかったことにするようだ。



ムッと頬をふくらませ、部屋の前に陣取ることに決めた詩織。




体育座りで柱に体を預け


「あーぁ、つまんなーいの」


空を見上げ、一言。




空は 先程まで確かに晴れていたのに、今はどんよりと雲に覆われ、なんだか詩織の心模様と同じような気がする。





そしてタイミングよく


「宮野さん何をしているのですか?」


沖田がやってきた。




本当はずっと部屋の近くにいたのではないかと思うほどのタイミングの良さだ。



「...見た通り何もしてませんよ」


ボソッと答える。



「それより沖田さんこそ何しにここへ?
連れていった原田さんはどうなりました?」


そして何か口に出さなきゃと思って出てきたこの言葉。


失敗した気がする詩織。



「あぁ...原田さんのこと気になります?」


「えぇ」


「声、聞こえません?
怒鳴っている土方さんの声。
これが答えで大丈夫ですか?」


沖田にそう言われ、耳を澄ますと遠くから微かに聞こえてくる土方の声。


『てめぇはなんでそんなに見境ねぇのか!?』とか『女だったら誰でもいいのか!?』なんてセリフ。


うわっ、詩織にも若干失礼だ。



自分はそこまで酷いのか なんて傷つき落ち込む。




そんな詩織の雰囲気を感じ取ってか沖田は話を変える。


「それと僕がここに来た理由は宮野さんと話してみたいと思ったからですね」


ついでにちゃっかり詩織の横にペタンと並んで座った。


「私と...ですか?」


「はい、そうですよ」


ふふっ、と笑った沖田の表情は人懐っこさがにじみ出ていてなんだか安心する。




それでも


「大丈夫ですけど...今、ですか?」


詩織は戸惑いを隠せない。




「こんな格好ですけどいいんですか?」



そう言う詩織の姿は確かに寝起きのままでとても人に見せられるものではない。



本当は起きてすぐに着替えたかったのだが服がどこにあるのか、そもそも詩織の服は用意されているのか分からないのでそのままだった。



沖田に あぁ、と頷かれ さすがにそのままではダメですね なんて言われてしまった。




それはそれでショックだ。




んー...と空を見上げ数秒悩んだかと思うと沖田はスゥッと 立ち上がり、


「では、ここで人の話を盗み聞きしている方々から着物を貸していただきましょう」


障子をスパーンと勢い良く開けた。





「...皆さん何をしているんですか」


呆れた様子の詩織。




それもそのはずで着替えを済ませた三人が、障子に片耳を立てた姿で立ちすくんでいたのだ。



沖田があまりにも勢いよく障子を開いたせいで、隠れる暇もなかった感じだ。




情けないと言うかなんとやら。


これが、あの新撰組だなんて...


泣く子も黙る新撰組だなんて...




先輩達より新撰組に興味のない詩織でもがっかりだ。



実はやるときにやる集団なのか?なんて無理やり納得する詩織。





それでも盗み聞きがバレ、あたふたしている三人(主に藤堂)を見ているうちにそんなはずもないか...なんて軽い諦め。



ハァっとため息をついて一言。



「すみませんが、どなたか着るものを貸していただけませんか?」




コテっと首をかしげ お願いする詩織の姿はかわいかったとかなかったとか。





そして、そんなこんなで詩織に服を貸したのは皆さまの予想通り。


藤堂平助です。




当然女物ではなく紺地の男物。


それでも詩織は嬉しそうにお礼を言う。



「ありがとうございます!藤堂さん」


「いえ!べべべ別に気にしないでください!」


「そうだよなーさっきまで宮野が着ていた物も平助のヤツだもんなー」


「えっ!そうだったんですか!?
尚更、ありがとうございます」


「なんで新ぱっつぁんそのこと言っちゃうの!?」




若干噛み合わない三人の会話。




見ていて そんなことは時間の無駄だと思ったのだろう。



沖田がプクゥと頬を膨らましている。



「宮野さん、僕と出かけるんですよねぇ?」


「...そんな約束していませんよ!?」


「いーえ!さっき僕と話すって言ってくれました!」


「それはそうですが...」


「善は急げ!ってことで早速行きましょう!」


「うぇぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇ?!」



沖田に勢いよく手を引っ張られ、連れていかれかける詩織。


デジャブ。


嫌な予感。







そして嫌な予感は当たるもの。






バランスを崩し、詩織は勢いよく転倒。





シー...ン と、静まる部屋。




明らかにヤバッと顔を焦...らせない沖田。






鬼畜にも


「宮野さーん何寝てるんですか?」


倒れた詩織をツンツンして微笑んでいる。笑っている。




そして詩織を助け起こしたのは今まで無言を貫いていた斎藤。



「大丈夫か?」


「ありがとうございます」




笑いを堪えながらだが、助けてくれたので良しとする。



それでも沖田への怒りを隠せない詩織。



「...出かけるなら早く行きましょう!」


声を荒らげ、ドタドタと床を踏み鳴らし怒っていることをアピール。



それを笑う沖田。


そしてさらに怒る詩織。




悪循環。
















顔を見合わせ頭を抱える永倉・斎藤・藤堂。



「あ゙ー!僕も付いていきますから二人とも落ち着いて!」


こんな呆れた藤堂の声がなかったら二人はまず いつまでも出かけることなど出来なかったはずだ。


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