神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました

そうして 沖田が二人を連れてきたのは人通りが少ないところにある甘味屋。


「ここのお団子は絶品なんですよ?」


なんて沖田の言葉も 呆然としている二人の耳には届いていない。





「あー...かなり味のある甘味屋さんですね!」


「そうそう!」


ボロボロというか...かなり古い外見の甘味屋を見ての 詩織の苦し紛れの言葉にちゃっかり乗っかる藤堂。



詩織はギロりと睨む。


それに気づかないふりを口笛を吹くマネをしながらする藤堂。


「あっ、お婆さん!
みたらし団子三本くださーい」


沖田は団子を頼むことに夢中で本当に気づかない。


「あたしのことは『お婆さん』ではなく 『お姉さん』と呼びなさいと何度言えばあんたは分かるの!」


「フフッ 僕は嘘がつけないので すみませーん」


「コラッ!」


なんだかキャラの濃い 長い白髪を頭のてっぺんでお団子に結った 六十代くらいのお婆s...もとい お姉さんが店の奥から出てきた。



「あらあら、他に人を連れてきていたなら最初に言いなさいな」



沖田の時とは違って 二人には にこやかな微笑みを浮かべるお姉さん。



「お、おはようございます!」


「んー 嬢ちゃんは かわいいなぁ」


「いいえ!そこまででも...」


「冗談を本気にしたらダメだよ、宮野さん?」


「...沖田さんには話してません!」


「ホント、二人は仲いいなぁ」


「「平助(藤堂さん)は黙ってて(ください)!」」


「は、はい...」



そんな三人の掛け合いをお姉さんは お団子を準備しながら眺めていた。



「...あの、ずっと立っているのもなんですから 席に座りません?」



藤堂がおずおずと二人に提案。


彼は既にちゃっかり店内に入り、奥の方の座敷に上がって座っていた。



一時休戦?二人は大人しく藤堂の元へ行く。



藤堂の隣に沖田、その二人の前に詩織と言った感じに座る。




二・三分もしないうちに お姉さんがみたらし団子を持って登場。



詩織もよく知っている形。


串に丸い団子が四個刺さっていて、そしてその上には美味しそうにトロトロとしているみたらし。


ホカホカと湯気が立っていて、出来立てのようだ。



「美味しそうですね!
お姉さんが作ったのですか?」


「そうよ?朝早くから準備もしてね」


「美味しいに決まっているじゃないですか〜
味だけは保証できますよ?」


「“だけ”とはなんだい!
そんなこと言うなら食べさせ...」


鬼の形相になったお姉さんのそんな言葉に沖田は大急ぎで言い直す。



「もちろん売り手のお姉様も美人でいらしますからね!食力増大!僕が一番好きなみたらし団子の味ですよ!!!」


今までとは打って変わる 沖田の言い分。
息もつかずに言い切った。


その隣で 藤堂は目が点になっている。


沖田が こんなにも饒舌に、しかも人を褒めているところなんて 初めて見たからだ。



それならばと、沖田のお墨付きのお団子。


藤堂は どれほど美味しいのかと期待して口へ運ぶ。


「あっ、本当に美味しいですね!」


思わず出た藤堂の呟きに お姉さんは素早く反応。


「でしょう?
あたしが一人で全部準備から何までしているから あまり多くお出しすることは出来ないのが残念だけど...」


詩織は団子を一口食べてすぐ お姉さんの言葉を遮ってまで 感想を。


「いいえ!有名になってしまったら 私が食べる分がなくなってしまうので これは 隠れた名店ってのがいいと思います!
沖田さんの言う通り本当に美味しいです!ありがとうございます!」


「嬢ちゃんったら...
あたしの方こそありがとね、そこまで褒めて頂けるなんて思わなかったわ」


「そんな!本当のことですから!」



柔らかく微笑んだお姉さん。


詩織も ふふっと反射的に微笑む。



和やかな時間。





少ししてからお姉さんが


「あたしはまだ準備があるから...奥にいるから何かあったら呼んでね?」


なんて言って 店の奥へ行ってしまった。








その瞬間。


突然、空気がガラリと変わった。


詩織でも分かるほどに。






「さて、では 何から話します?」






そんな尋問めいた沖田の言葉が出たからだ。


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