神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました

「えっと...何ってなんですか?」


「簡単に言ってしまえば あなたの目的ですね」



戸惑い気味の詩織の言葉に 冷たい視線で沖田は返す。



先ほどまで にこやかに朗らかに 詩織に笑顔を向けていた人物と同じとは思えないほど。




そんな視線に負けじと詩織は答える。


「私には、目的などありません」


あるのは私ではなく、ここに連れてきた『神さま』ただ一人だけです。


なんて言葉も口には出さないが心の中で唱える。



ふぅん、だなんて到底信じてなどいないだろう視線を向ける沖田。




このやり取りすらも この時代に来てから二度目だろうか?




そう簡単に信じてもらえぬことなど頭では理解はしていた。



が、先ほどまで友好的に、好意的にさえ感じていたのに それさえも演技だったとは信じたくなかった。







藤堂が


「総司、急にどうしちゃったの?!
この前さんざんそのことは話しあったよね?!
本当にそんなことを話したかったの?」


なんて、焦る 宥める声が詩織の耳には届いてはいたが 通り抜けていった。






いつか、いや、こんなことを言っていても藤堂も自分のことを疑っているのだろうか?


そんな不安が詩織の心に押し寄せる。





今朝のことも、実は原田さんは私を逃さないためにわざと抱き寄せていた...?




誰も自分のことなど信じていない?




下心があると思われていた?間者だと?




本当は私が何かボロを出すように泳がせていた?







詩織はそこまで考え、息が苦しくなった。







落ち着いて深呼吸しようと思っても、出来ない。






過呼吸に陥る。





「宮野さん、落ち着いて!」



藤堂がそんな詩織の様子に気がついて 飛んできた。


背中を優しくゆっくりとなでる。



そのおかげか段々と落ち着いた。



いつの間に準備したのだろう。


藤堂に水を渡され、コクンと飲む。




「...ありがとうございます」




お礼を言ったが ちゃんと笑えていられているだろうか?


詩織は心配になる。



一度考えてしまったことはそう簡単には取り消せない。




悪い方向、悪い方向へと考えてしまう。













詩織は泣きたくなった。




好きでこの時代に来たわけではない。




本当は信長さまがいらっしゃる安土桃山時代に行きたかった。



政略結婚でもいい、正室の濃姫になりたかった。


信長さまに政治について助言できる立場になりたかった。


本能寺の変なんて起こさせなかった。


信長さまに天下を取らせたかった。










───たとえ、未来が変わってしまうと分かっていても。






















思わずハッとした。



これでは神さまとおなじ考えだと。



最初にタイムスリップする時も確かにそう思った。



信長さまの歴史を変えてでも 天下を取らせたい。


そのお手伝いをしたいと。






でも、実際に過去へタイムスリップしてしまったら肌で感じる。


過去を変えてはいけないと。



未来は自分だけのものではないのだから。



生まれるべき人間が死に、死ぬべき人間が生きている。



そんな未来が起こってしまうこともあるのだから。





そうなってしまったら詩織には責任など取れない。





神さまだったら


『そんなコト気にしなくていいわよ!』


なんて言うかもしれない。いや、言った。





それでも自分は自分。



神さまには流されない。



私は私が正しいと思うことをする。








スゥッと前を見つめる。


鋭い目つき。


ここで生きていくための方針を詩織は決めた。



フッと息を吐いて一言。






























「貴方たちは未来を知りたいと思いますか?」










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