神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


「「えっ?」」


向かいに座っていた二人の声が重なる。


そんな二人の目をまっすぐと見つめ、詩織は続ける。


「私は、未来は知りたくありません」



そこでフッと視線を下へ向けた。



「いえ、本当は知りたいです。
ですが、私よりも先の未来─私の住んでいる時代を過去と見る方々の世界─を変えてしまう恐れがあるのなら 私は未来など知りたくない。

お二人に私の考えを押し付けるつもりはありません。
ですが、これを踏まえて お二人は未来を知りたいと思いますか?
それでしたら、私は…これから貴方方の歩む未来を変えるお手伝いをしましょう」




最後の言葉は震えた声で。




まだ、迷っている。





これは悪いこと、だとも分かっていた。





それでも、自分はただの傍観者にもなりたくなかった。





死ぬと分かっている人間を そのまま見て見ぬフリをして のうのうと自分は生きるなんて残酷なことはしたくなかった。






それに自分がこの時代に来た時点で 過去に介入しているのだから 歴史は少しぐらいは変わるはず。




それなら大きく変えても変わらないでしょ?







なんて言い訳めいた言葉も出てくる始末。





あぁ、それでもイヤだ。




矛盾しているけれど、過去は変えたいのに変えたくもない。







さっさとこの時代から消え去りたい。







きっと、自分がここにいるイミなんてないのだろう。





すべて、神さまの気まぐれ。





それなら、元の時代へ自分を早く返してください。





あなたの望むように動いてみせますから…










そんな詩織の思いなど知らずに沖田は答えた。


「僕は別に未来なんて知りたくありませんが?」


キョトンとした顔で首を軽く傾げる。



「…本当ですか?」


「えぇ。
まぁ平助がどうなのかは知らないけどね」


「僕も…そんなに知りたいとは思わないかなぁ」


「なぜ、ですか?」


「未来なんて知っちゃったら つまらないじゃないですか?」


沖田の言葉に詩織は無言になる。




確かにそうだ。



つまらない。



詩織にとってこの世界は、この時代はつまらないものだ。



何が起きるのか、だいたいのことは知ってしまっているから。


特に、この眼の前にいる人たちのことは。




「そう、ですね。とてもつまらないものです」


「でしょう?
ですから僕たちは 宮野さんから未来を教えてもらう必要はないんです。
…そんなわけでこれ以上 涙を落とすのはやめません?」


「えっ?」



沖田はそんなことを言って、詩織の方へ手を伸ばす。


いつの間にかおしぼりを手に持っている。



お姉さんが持ってきたのかな?なんて筋違いな方向へ。


俗に言う『現実逃避』ってやつ。




おしぼりが詩織の頬に届く。


スゥーッと冷たくて気持ちいい。


そして微かに沖田の温かい手が詩織の頬を掠った。





現実へ戻る。


カーッと顔に血が集まった。





「お、沖田さんそんな申し訳ないです!
自分で拭えますから!!!」


詩織が思わず恥ずかしくて叫ぶと、沖田は あぁそう?なんて何でもないことのように手を離した。



でも、もう拭き終わっちゃったよ?なんてイタズラ気に笑いながら。




ヴッ…なんて顔を真っ赤にして唸りながらも詩織は ありがとうございます とお礼を言う。



突然、顔を見合わせてプッと吹き出す二人。



「…なんですか?」



ムッとして詩織が尋ねると


「もしかして宮野さんって…いえ、何でもないですよ」



沖田がクックッと喉の奥で笑いながら答える。




沖田は答えてくれなそうだと判断した詩織は今度は藤堂に目を向ける。






それを見て


「ぼ、僕は何も知りませんよ!?」


顔の前で両手を振りながら焦る藤堂。



ハァ…と 詩織はため息をついた。


そこまで嫌がるなら力ずくで聞こうとするのはやめよう。


きっとしょうもないようなことだろうし。



むりやり納得する。











その代わり


「お姉さーん、みたらし団子もう一本追加お願いしま〜す!」


席を勢いよく立ち上がり 注文へ。





「え゛っ? 」



「もちろん沖田さんが払ってくださいよ?」




嫌がる沖田に有無を言わさず微笑む詩織。


藤堂はなぜか呆気にとられている。




それでも一人、上機嫌でお団子を待つ詩織。


鼻歌まで歌っちゃう始末。



そんな詩織に呆れたように笑い、藤堂が問いかけた。


「宮野さん…そんなに団子が好きですか?」


「えぇ!
特にここのは美味しいですからね!」


「お嬢ちゃん本当にありがとね」



タイミングよくお姉さんがお団子を持って登場。


詩織はキラキラと目を輝かせる。



「こちらこそこんなにも美味しいお団子をありがとうございます!」



いただきまーす! そう明るく言って詩織は団子を頬張る。



そんな詩織を慈しむような目で見守る三人。




それで食べにくいのか


「私、何かしました?」


食べることを中断しておずおずと尋ねた。



ニコニコと笑って沖田は答える。


「いーえ、どうぞ食べててください」


「ジッと見られてると食べにくいのですが…」


「あっ、気づかなくてごめんね!
とっても美味しそうに食べてるな〜、って思ってつい見ちゃってました」



藤堂はそう言いながらもまだ詩織を見ている。



それならば、と 気にせず食べることに。



あっという間に食べ終わる。



二人も詩織が食べ終わるのを待っていたようで、席から立ち上がり帰る準備。


お会計も沖田が三人分さっさと済ませる。



「お姉さん!
今日は美味しいお団子ありがとうございます!
また絶対に来ますから!」


「待ってるわね、お嬢ちゃん」


「はい!」





そうして詩織はお姉さんと別れ、いざ帰った。


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