神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました
いや、違う。
声は沖田だが、手を離し、突き飛ばしたのは藤堂の方だ。
「えっ?」
離れていく藤堂の手。
反対側から沖田が詩織を引っ張る。
「帰ったら説明しますから、今は藤堂から全力で逃げましょう」
「どういう...ことですか?」
「全ては帰ってからです」
真剣な顔で沖田が言う。
詩織は沖田に引っ張られるまま走らされる。
その時、雨がポツリ、またポツリと降ってきた。
「あっ、手遅れにならない内に早く!」
さっきより強く、沖田に手を引かれる。
詩織は転ばないように速く、速く足を動かすことしかできなかった。
どこを走ったのだろうか。
フッと周りに視線を向ける。
これは裏道とか言われる場所だろうか?
塀と塀の間の 人 一人がやっと通れる細道。
暗く、ジメジメとしていい気分はしない。
沖田が連れて行くまま 走ったからよく分からない所。
しかも履いているのは靴ではなく、下駄。
走りにくいったらありゃしない。
「 ───ッ!」
不意に詩織の下駄の鼻緒が切れた。
前につんのめる。
沖田の背にポスッとぶつかる。
「沖田さん、ごめんなさい...
もう、走れません...」
弱々しく詩織は謝った。
沖田は立ち止まる。
顎に手を当て、少し考える格好。
その間、0.5秒。
「では、嫌かもしれませんが少し我慢してください」
ん、と言って詩織の前にしゃがんだ。
「急にどうしましたか!?」
「僕がおぶって逃げてあげるって言ってるの」
「そんな、明日雪でも降るんですか!?」
「宮野さんってホント失礼だよね。
でもね、今は時間がないから早くしてくれる?
藤堂に見つかって困るのは宮野さん、君だよ?
面倒だし もう斬られる方がいい?」
「あ、はい今すぐ乗させていただきます斬らないでください」
「分かれば良し」
そうは言ったものの畏れおおくて、結局おどおどしつつ沖田の背に乗る。
口調が少し変わっているのも気になる。
が、やっぱり沖田さんも男の人なんだなって広い背中の上で詩織は思った。
「ありがとう、ございます」
「いえいえー
それより大丈夫?落ちないようにしっかり捕まってるんですよ?」
「はい...」
そうして沖田は走る。
先ほどまでとは比べものにならないほど速く。
どうやら詩織に合わせてスピードを緩めていたようだ。
皆さんには迷惑ばっかりかけてるなって落ち込む。自然と出るものはため息ばかり。
そんな詩織の気持ちをエスパーのように読み取る沖田。
「自分をそんなに責めないでください」
「...沖田さん?」
「こんなことになったのは藤堂の体質を知っていたのに連れ出した僕の責任。
宮野さんが気負う必要なんてどこにもないんですから」
「あの、ふと思ったのですが藤堂さんの体質ってなんですか?」
「僕の独断だけでは簡単に言えません。
本当にすみませんが帰るまでは何も藤堂については聞かないでください」
「はい...分かりました」
沖田の答えに詩織は納得しなかった。
だが、そう答える。
振り落とされないようギュッと沖田にしがみつく。
スピードが更に速まった気がした。