神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました
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あれからほんの少し経ち、詩織は土方の部屋で正座をさせられていた。
詩織の隣にはもちろん沖田がいる。
頭上から正に般若の顔をした土方が二人に怒鳴っていた。
『おまえらは人の迷惑ってのが考えられないのか?!』
『大人しくしてろ!』
そんな感じの言葉を土方は怒鳴っていた。
だが、それこそ今の土方に返したい言葉だ。
詩織はソ〜ッと土方を刺激しないように髪の間から覗き見た。
どうも虫の居所が悪いのか、怒りを収める様子が全くない。
チラッと今度は沖田の方を盗み見てみると、俯きながら静かに笑っていた!
しかも肩を震わせながら!
土方は怒ることに集中しているのか気づいていない。
(あーぁ、これ土方さんが気づいたら また怒りを爆発させるだろうなー)
心の中でそう思い、呆れる詩織。
かと言って、それを止めるわけでもなく 大人しく土方に怒鳴られていた。
心を無にして。
そしてこうなった経緯を思い出していた。
あれは、沖田の笑い声を聞きつけ、土方が飛んできたことから始まった。
沖田が大笑いしてすぐのこと。
ドタドタドタ!と 屋敷の奥からすさまじい大音量の足音が聞こえてきた、と思ったら顔を真っ赤にした土方が登場。
その勢いのまま 沖田を叩いた。
「おまえは ちったぁ静かにできねぇのかぁ!?」
「だって宮野さんが...ククッ......面白いんですもの...アハハハハハ」
「私は何も...!」
「どうだ?斎藤」
「宮野を見て 急に総司が笑い出しました」
「...二人が着替え終わったら俺の部屋に藤堂を連れて来い」
「だから私は何もして ───」
「御意」
「アハハハハハハハハハハハ
ホンット宮野さんって...クククックク」
「少しは私の話を聞いてくださいって!!!」
詩織がそう怒鳴ると 静かになる三人。
呆けた顔で詩織を見つめている。
土方に至っては、わざわざ歩き出した足を止めてまで。
改まって聞く話でも言う話でもない。
が、訴える。
「私の場合 濡れ衣です!
沖田さんが勝手に笑い始めただけで私は何もしていません!」
「まぁそうだろうな」
淡々と答える土方。
それに少し驚きながらも 詩織は不満が更に大きくなる。
いや 疑問も、か。
「なら、何故 ───」
「藤堂のこと、流石に知りたいだろ?」
そうニヤリと口角を上げて言う 土方に 詩織は自然と頷いていた。
すると満足そうに土方は部屋へと戻っていく。
斎藤も自分の部屋に戻り 藤堂を土方の部屋へ連れていく準備をするようで、玄関には沖田と詩織の二人っきり。
くるりと沖田は微笑み、詩織の方を振り返って 手を差し伸べる。
「では、行きましょうか」
「えっ?」
「服、着替えてから土方さんの部屋に行かないと」
「で、ですけど...」
沖田にそう言われたものの、詩織には替えの服などない。
今着ているものも 藤堂のものだ。
あの状態の藤堂に服を借りるなんて 命知らずなこと、詩織には出来ない。したくない。
悶々と悩む詩織を見て、ハァ...と、沖田が軽いため息を吐いた。
「僕が貸してあげるから 行きましょう?」
「...大丈夫ですか?」
「何がです?」
「...後から何か見返りとか求めませんか?」
ジト目で尋ねるしおりに、沖田は深〜いため息を返した。
「だから宮野さんは僕をなんだと思ってるの...
そんなことしませんから 僕のに着替えてくださいっ!」
「は〜い」
それなら安心と元気よく返事。
沖田の部屋へとついていった。