神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました
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再び季節は流れ、初夏となった。
詩織がいた時代よりは暑くないにしても、蒸し暑いことには何ら変わりはしない。
着物も夏物の薄地の物となった。
今大阪に詩織は居る。
あれから、新撰組隊士を増やすために大阪へ勧誘しに来ているわけである。
その中にわがままを言って加えてもらった。
何もなければいいと願うもののそんなわけがないことを詩織は知っている。
歴史通りにいけば、芹沢がどんどんと地獄へと落ちていく。
それを止めるつもりで詩織はついてきた。
もちろん、この思いは誰にも言っていない。
言えるわけがなかった。
未来を教えるつもりはない、と前に大見得を切ってしまったからだ。
それでも、あくまでソレは近藤一派だけだ、と言い訳をする。
芹沢一派は含まれていない、と──
一人、暑さから、現実から逃れるように井戸のそばでひんやりとした汲んだばかりの水に手を浸していると複数人の足音が聞こえてきた。
誰だろう? なんて不思議に思っていたら、芹沢と斎藤だった。
「お二人が一緒だなんて珍しいですね」
「そうか?」
「そうですよ、斎藤さん。
ところで私に何か用があるのですか?」
二人が仲が良いのならこのまま時が流れればいいなぁ、なんて思った。
しかし、その考えが吹き飛ぶほど詩織が恐れていた事態となる。
斎藤が答える前に芹沢が快活に詩織の質問に答えた。
「小娘! 一緒にわし等と涼みに行かぬか!」
クラリと視界が歪んだ気がした。
聞き間違えだと信じたかった。
その可能性を信じて、声を震わせながらも聞き返す。
「それはどこへ、ですか…?」
「川までじゃ!そこで川下りをしよう!」
あぁ、神は残酷だ。
歴史はこのままでは変わらない。
静かにと、しかし刻々と芹沢を地獄へと歩み行かせる足音が聞こえてきた。