神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


時を同じくして 屯所では



「土方さ~ん構ってください!」


「………………」


「…豊玉先せ ───」


「あ゛ぁ!?」



沖田総司が土方歳三の部屋でくつろいでいた。




土方は一向に静かになる様子がない沖田のことを諦め、文机にたまっている書類を指さし



「あのなぁ総司 俺が今何してるのか分かってるのか?」



沖田に向かってため息をつきながら問いかけた。




しかし 沖田は楽しそうに笑いながら



「いーえ!
土方さんが趣味に没頭しているように見えまーす」



豊玉発句集を土方から奪った。



「…てめぇの残した仕事を片付けてやってんだよぉぉぉおぉぉぉぉおぉ!!!」



当然怒る土方。


書類も投げ出して沖田を追いかけはじめる。



隊士の皆様も「いつものことか…」と触らぬ鬼に祟りなし


傍観することに決めたようだ。





そんな沖田は土方との鬼ごっこに飽きたのか 数分で屯所の中を逃げ回ることをやめた。



久しぶりの全速力で息も切れ切れになるほど疲れ切った土方。



沖田が走りやめたのをこれ幸いと発句集を返してもらおうとした。



しかし沖田が素直にすぐ土方に発句集を返すわけもなく…



「土方さん最近体力落ちたんじゃありませんか?」



憎まれ口を叩く。



「…てめぇには関係ねぇ、だろ……」



少し思い当たる節はあるものの 肩で息をしながら答えた土方。



「そんなことより俺の発句集…返しやがれ」


「え~どうしましょうか~」



顔面が紅潮してくる土方とは反対に 沖田は新しい玩具を見つけた子供のように楽しそうに笑った。



土方の怒りのボルテージが最大級に上がる。



ついに土方の雷が沖田に落ちようとしていた。



2人の近くにいた隊士たちが少しでも土方の怒りに巻き込まれないように避難を始めている。




いよいよ土方の雷が落ちると思われていた そのとき



「…土方さん、あれ見てくださいよ」



沖田が土方の息が抜けるようなタイミングで 帰っていた永倉たちを指さした。





「永倉さ~ん、その子どうしたんですか?」



土方にすでに興味がなくなった沖田は ずぶぬれの少女を抱えた永倉に駆け寄りながら聞いた。


沖田の後ろでは土方が怒りをどこに向ければいいのか分からず呆然としている。



「川に沈んでいたのを原田と拾った」



沖田の問いに永倉がサラッと答える。



「で、ソレはどうすんだ?」



沖田にスルーされたショックから早くも立ち直った土方が永倉たちに聞く。



「屯所に置くことは……できねぇよな?」


「当たり前だ」



恐る恐る聞いた永倉の言葉をバッサリと切り捨てる土方。



「ですが、この子…少し怪しいですよ?」



沖田が土方の顔を覗き込みながら言った。




しかし 基本的に人がいい沖田がそう思うのも無理はなかった。



永倉が川から拾ってきたという少女は髪が黒いのはまだしも肩までと短い髪。


しかも服装も 水兵服のような服で女が着るにしては考えにくかった。



ただ単に異国の女のだけかもしれないが…


まさか長州の間者なのか?


男たちの脳裏をフッと かすめた考え。



だが 怪しいからと言ってずぶぬれの少女をこのまま放っておくなんてことはここにいる男たちにはできない。




「土方さんはどうするおつもりなんですか?」



確認の意味で少女の身柄をどうするつもりか もう一度土方を見つめながら沖田は聞いた。



土方は仔犬のように純粋な瞳でジーッと見つめてくる沖田に負け



「…とりあえずその女は適当な部屋に寝かせておけ」



少女を屯所に置くことを認めてしまった。



土方の言葉を受け 永倉と原田は少女を自分たちが普段使用している部屋に連れて行くことにする。




土方はといえば 沖田から発句集を返してもらうことは諦め



『見知らぬ少女を預かることになった』



と 近藤さんに報告するべく局長室へと向かった。


沖田も土方と一緒にいくようだ。


本当にあの三人は昔から親子のように仲がいい。


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