神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました
詩織が転んだのを確認しつつ小さく「…ぁ」と呟いた男。
そして尋常ではないほど 焦りはじめる。
「ほ、本当に すすすみませんでしたー!」
「い、いいえ 私は大丈夫でしたので……」
若干 詩織は焦りすぎる男に引いた。
今度こそはと ゆっくり起き上がり 服についたほこりを払おうとした詩織。
だが、そこで初めて気づく。
「…私の服は?」
着ているものが明らかに自分が着ていたセーラー服ではなく紺色の着物?…に変わっていた。
またも 小さく「…ぁ」と呟き頭を抱えた男。
しかしそれは一瞬のことですぐに立ち直り
「とととにかく…僕についてきてください!
話はそこでしますから!!!」
またも詩織の腕を掴みながら 懸命にどこかへと連れて行こうとする。
ただし視線は明後日の方向を向けながら気まずそうだったが。
しかし男が焦れば焦るほど 落ち着いてきた詩織。
さっきまでは寝ぼけてボケーっとしていた頭の中も 今は少しはまともにでもなっただろう。
だが、この場所から動くのはなんだかめんどくさい。
タイムスリップ疲れと言うかなんというか?が冷静に考えられるようになったからこそ出てきたのかもしれない。
詩織は『ここからは動きたくない』という意思を顔に出しながら聞いた。
「今 ここでできる話ではないんですか?」
「…だから僕に決定権なんてないんだってば~!」
絶対零度の笑みを浮かべた詩織を見て 涙目で今にも泣き出しそうな声で叫んだ男。
仕方がないので詩織は男の言うとおりについていくことにした。
最初から素直にそうすればよかったとかは言わないでくださいな。
「では 仕方ないので貴方についていきましょう」
パァっと明るくなった男の顔。
ただし…
「その前に私の質問に答えてください」
詩織のその言葉を聞くまでだった。
途端に苦虫を噛み潰したような顔をした男。
「…僕が知っている範囲であればいいですが」
しかし困った顔をしながらも詩織の質問には答えてくれるようだ。
「…私の質問は二つあるのですが いいですよね?」
ピシッと男の前にピースサインを突き出しながら問うた。
やはり苦笑いをしながらだが 男が頷く。
詩織はそのことを確認してから口を開く。
「まず私は宮野、宮野詩織と申します。
貴方の名前を教えてください」
「僕のですか?」
「はい」
詩織は、自分の顔を指さしながら聞いた男にはっきりと頷いた。
詩織の顔を見ながら男は自分の名前を告げる。
「僕は藤堂、藤堂平助」
あぁ…と納得した詩織。
何故かといえば 普段から先輩が言っていた『藤堂平助』のイメージと目の前にいる男の印象が同じだったからだ。
目は大きなネコ目 顔は整っている方だが まだ幼く子供っぽい。
それにイタズラ好きそうな雰囲気。
そんな男が藤堂平助以外に新選組の中にいたら驚きだ。
そう勝手に納得しながら 最後の質問を聞く。
「では最後に教えてください。
今は何年の何月ですか?」
詩織の最後の質問に『ハッ?』という表情を顔に出しながらも答えた藤堂。
「文久三年の四月だけど」
藤堂の答えを聞いた瞬間 目の前が真っ暗になった詩織。
覚悟はしていたが現実を突きつけられると どうすれば良いか分からなくなった。
顔を真っ青にしながら
「…教えていただきありがとうございました」
お礼を言うのがやっとだった。
そしてゆっくりと歩き始めた詩織。
視界に藤堂は入っていない模様。
案の定 目の前にいた藤堂にぶつかった。
「…宮野さん大丈夫ですか?」
怪訝な顔をしながらもぶつかった詩織を抱えながら藤堂が聞く。
「あっ…大丈夫です。
早く皆さんがいる場所へ行きましょう」
今度はしっかりと藤堂を視界に入れながら返事した詩織。
ぶつかる心配はもうない。
こうして詩織は約束通り大人しく藤堂についていくことにした。