口の悪い、彼は。
タイムリミットが30分になった頃、私は脇目もふらず打ち込みを続けていた。
よし、あともう少し。
この調子なら予測通り、余裕で1時間で終わらせられそうだ。良かった。
「……高橋、おい!聞こえてねぇのか?」
「えっ!?」
突然耳に入ってきた部長の声に、キーボードから手をぱっと離して後ろを振り向くと、そこには目を細めて呆れ返った様子で腕を組み、私を見下ろす部長の姿があった。
打ち込みと考えごとに集中していたらしい私は、周りの音をいつの間にかシャットアウトしていたらしい。
「どんだけ周りが見えてねぇんだよ」
「あっ、すみません……!」
スナイパーのような部長の鋭すぎる目に私はびくびくしてしまう。
うぅ、怖いよ~。
すっと部長の左手が目の前に伸びてきて、私はさらに身体をびくっとさせてしまって、つい声を出しそうになる。
「っ!」
「ここ、間違えてる」
「えっ!?」
部長が指差しているのはパソコン画面に表示されたある金額。
私は慌てて伝票と見比べると、一桁も金額が違っている。
「あれっ!?」
「ミスすんなっつっただろうが。余計なこと考えないで打ち込みだけに集中しろ。最後にチェックも忘れんなよ」
「はい……すみません」
はぁ、と大きなため息をついた部長はそれ以上は何も言わず、オフィスを出ていってしまった。
余計なこと考えて、って何でわかったんだろう?
打ち間違えをしていたから?
それとも……もしかして、部長って人の心を読めるエスパー?
妙なことを一瞬考えてしまったけど、すぐに時間制限があることを思い出した私は間違えたところを修正して、続きの打ち込みに戻った。