口の悪い、彼は。
 

むしろ……今日起きてからずっと思ってたけど、部長のスーツ以外のラフな格好もすごくカッコいいのだ。

整髪剤で整えられていない髪の毛はふんわりとしていて、下ろされている前髪がいつもに比べて若く感じさせる。

それに、ジーンズを履くなんて予想してなかったけど、すごく似合っていてドキドキしてしまう。


「名前呼んで欲しいですか?呼びましょうか?ねぇねぇ」

「ほんと、お前はぴーちくぱーちくうるせぇな。少し黙れよ」

「んっ」


……今日初めてのキス。

チュッとリップ音を立てて何度も唇を重ねられるけど、もっと近付きたくて私は部長の首に腕を絡めて、もっと欲しいと求める。

こうやって部長と触れあえることがまだ夢みたいだ。

……夢なら終わっちゃうの嫌だし余計に離れたくないな、と思った時、部長の唇があっさりと離れてしまった。

間でふたりの吐息が混じり合ったのを感じながら目線を上げると、部長が私の目をじっと見つめてきていた。


「……へぇ。肉食系ってやつか?意外だな」

「そ、そんなんじゃありません!」

「ふぅん」


「まぁいいけど」と言った部長は私をスルッと引き剥がしてソファーに向かう。

私はその後ろを追いかけた。


「幻滅しました?」

「別に。最初から何の期待もしてない」

「うっ、酷い!」


期待されているとは思っていなかったとは言え、あまりの言われようにぶうと膨れると、部長はソファーに座りながらまた私の心をがっちりと掴むような笑顔を繰り出してきた。


「っ!」

「高橋は百面相が得意なんだな」

「……部長は私をドキドキさせるのが得意ですよね」

「何だそれ。意味わかんねぇ」


ソファーに先に座った部長の手が私の手を取り、くいっと引っ張って隣に私を座らせた。

まるで、「ここに座れ」と言うように。

こういう行動にもドキドキさせられるっていうの、気付いてないのかな?

 
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