口の悪い、彼は。
 

その時だった。

こんこんっ、と部屋の扉を叩く音がして、扉が開いたのは。


「っ!!」


ビクッと扉の方に顔を向けると、そこにいたのは部長だった。

部長……!


「遅くなり……申し訳ありません」

「あ、あぁ。とんでもない。あぁ、時計、ありがとう」

「い、いえ……っ」


部長の目線がこっちを向いた瞬間、田仲さんの手がぱっと私から離れた。

私の手を包み込んでいた熱がなくなり、私はほっとした。

あからさまに手を引くのは失礼と思い、いつの間にか震え出していた手をゆっくりと引く。

良かった……。

やっと離れられた。


「あぁ、弊社の新製品を着けてくださっているんですね」

「えぇ。着け心地もいいし、とてもいい時計だと話していたんですよ。お客様にもきっと気に入っていただける」

「……そう仰っていただけて幸いです。ありがとうございます」


今のを部長に見られていたのだろうか、と思ったけど、田仲さんと会話をする部長には全くそんな素振りはなく、見られていなかったんだと思った。

もし見られていたとしても、きっと部長は何も言わない。

それなら、変に思われるのは嫌だし、見られていなくて良かった。


「高橋」

「は、はい!」

「あとは私が応対するから、戻っていなさい」

「……はい」


部長の口調はいつもと違って外部向けだし、表情はいつもと同じで笑顔もないけど、部長がそばにいるというだけで安心感に包まれた。

震える手をぎゅっと握り締め、私は「失礼します」とお辞儀をして会議室を後にした。

 
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