口の悪い、彼は。
「……飯は食ったのか?」
「へ?いや、まだですけど……」
「じゃあ、食ったらうちに来い。いいな?」
「……えぇっ!?」
部長に誘われたことに驚いた時、いつの間にか押されていたらしい5階に到着したエレベーターの扉が開いた。
繋がれていた部長の手が私をエレベーターの外に出し、そのままするりと離れる。
何がなんだかわからなくてポカンとエレベーターの中にいる部長のことを見てしまう。
「あの、部長」
そう呼んだ瞬間、部長が眉間に皺を寄せたのがはっきりと見えた。
「お前、ここがどこかわかってんのか?」
「えっ?」
「はぁ。ほんと何も引っ掛からねぇ、ざる頭だな。何度ここは会社じゃねぇっつったらわかるんだ?ったく」
「!」
はぁと大きなため息を残して、部長を乗せたままのエレベーターの扉がピシャリと閉まった。
……「ここは会社じゃない」って……もしかして、私が「部長」って呼んでたから、拗ねてるとか?
私はふと頭をよぎった予想に対して、上がっていくエレベーターの階数表示を呆然と眺める。
「……な、なーんて……また自意識過剰かな」
ははっと渇いた笑い声を廊下に残し、私は自分の部屋に戻った。