口の悪い、彼は。
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付き合い始めて1年半が経つ頃、私は部長のことを“千尋”と呼ぶことにすっかり慣れていた。
千尋は相変わらずツンツンしたことしか言ってこないし、「好きだ」って言ってくれたのだって付き合い始めた時の1回きりで甘い言葉なんて滅多に言ってくれないけど、私は千尋のそばに居ることができるだけで幸せだった。
……相変わらずなのは、会社でミスをすれば千尋に怒られることも、だ。
ただ、それはさらにパワーアップしていて、鬼のように恐ろしくて、毎回怒られるたびに涙目になってしまうほどだ。
悔しいから絶対に泣いたりなんかしないし、そんな暇があれば仕事を頑張ると決めているんだけど。
1年半前と比べてほとんど何も変わっていないと言えばそうなんだけど、実は今日、大きく変わることがあるんだ。
それは……今日、ついに結婚するということ!
「すっごい、すっごい綺麗!!!」
「それ何回目?もう聞き飽きたよ」
「だって!ねぇ!?喜多村さんもそう思うでしょ!?」
「うん、たまんねー!知夏(ちか)、超綺麗!」
「……もう。お世辞はいいのに」
「お世辞なんかじゃねぇし!知夏、マジ好き!愛してる!!」
「!や、やめて……?小春もいるから」
どさくさに紛れて堂々と愛の告白をする喜多村さんに対して、少し恥ずかしそうに目線を下げるのは、純白のウエディングドレスに身を包んだ私のお姉ちゃん……知夏だ。
そう。今日はお姉ちゃんと喜多村さんの結婚式なんだ。