口の悪い、彼は。
 

「!!……おいしい!」


黒蜜の風味が口の中に広がったかと思えばそれがふわっと鼻から抜け、あんこは舌の上でほろりと蕩け、まろやかな舌触りでくどい甘さもない。

皮はほんのり桜風味で私の好みどんぴしゃだ。

とにかく、おいしい。

何これ……!こんなお菓子が世の中にあったなんて!


「どうだ。うまいだろ」

「あっ、はい!すごくおいしいです!」


部長の言葉に、おいしさのあまり浮かべていた笑顔のまま答える。

部長の目が私の方を向いていたけど、私は構わずに残りの半分を口に入れ、むぐむぐと咀嚼して味わった。

本当にこれは顔が緩んでしまうほどのおいしさだ。

余韻を味わいながら顔を上げると部長とばちっと目が合った。

でも部長はふっと私から目をそらして、そっぽを向いたままその手に持っていた饅頭の包みをがさがさと開けて一口でぱくっと頬張った。


「うまい」

「!」


ぽつりと聞こえたその低い声はいつもとは少し違っている気がした。

「うまい」って……、もしかして部長ってこの饅頭が好きなの?

そう言えば、部長のご機嫌を少しなおしてくれるお菓子があるって岡野さんが言ってたけど、もしかしてこれなのかな?

甘いものなんて好きじゃなさそうだから予想もできなかったけど、まさか饅頭だったなんて。

 
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