口の悪い、彼は。
 

甘いものを食べた部長がどんな表情をしているのか興味を持ってしまってすごく見たくなったけど、部長は私に背を向けてしまっているからそれは叶わない。

ただ、その広い背中から出るオーラがいつもよりも柔らかく感じるのは、私の気のせい?

私はそんなことを思いながら部長の後ろ姿をじっと見ていると、部長がすっと左腕を伸ばしてまた戻し、左手首につけた腕時計を見た。

その動きには全く無駄がなく、まるで腕時計のCMに使われそうな光景だと思った。


「はぁ。つーか、こんな時間かよ。ったく」

「!すっ、すみません!」


綺麗な光景に引き込まれそうになった瞬間、飛んできたのは機嫌の悪そうな部長の声で、私は慌てて謝った。

それを合図に部長の口からどんどん言葉が出てきはじめる。


「謝るくらいなら残業しなくていいように、効率よく仕事しろよ。まずはタイプミスを減らす努力をしろ。タイピングなんて、慣れればなんてことはないんだから」

「はい……」

「いつまでも新人気分でいるなよ。さっさと次の仕事も覚えてもらわないといけないし、部内に少しくらい迷惑掛けるのはまだいいけど、顧客に迷惑掛かるような仕事をされるのは困るからな」

「はい……」


突然説教モードになった部長に対して、私はぐうの音も出ず、ただ大人しく頷くことしかできない。

この時間になってお説教だなんてツイてなさすぎる。

しかもこんな残業時間で、ようやく仕事も終わったというのに。

さっきまではあんなに穏やかだったのに、いつの間にかいつもみたいにツンツン部長に戻っちゃってるし。

やっぱりどんなに見た目がよくても、中身は仕事中もプライベートもこれがデフォルトなんだろうな……。

っていうか、饅頭をくれて一瞬優しく見えた部長は幻だったのかもしれない。

 
< 14 / 253 >

この作品をシェア

pagetop