口の悪い、彼は。
3
*
「お姉ちゃん、綺麗だったでしょ!?ねっ、ねっ!?」
「さっきから何度も何度もぴーちくぱーちく、うるせぇな。いい加減、黙れ」
はぁ、と千尋の大きなため息が私の耳に届く。
それと同時に、掴んでいた腕をするりと振り払われ、距離を取るようにして髪の毛をくしゃりとされて頭を押し返されてしまった。
「いいでしょ?お姉ちゃん、本当にすごく素敵だったんだもん!結婚式ってたくさん幸せをもらえるけど、お姉ちゃんと喜多村さんの結婚式は今まで行った中でも一番素敵だった!感動もたくさんしちゃったし、たくさん泣いちゃった~」
「……あぁ。帰る時にちらっとビービー泣く不細工な顔が見えたな、そういえば。お前だったのか」
「あっ!酷いっ!“笑顔はもちろんだけど、君は泣き顔もすごくかわいいよ”って言ってくれるのが彼氏ってものでしょ!?」
「……そんなセリフ言う男なんていねぇだろ。気持ちわりぃ」
「いるよー!映画とか観てたら出てくるもん!」
ぶぅと頬を膨らませると、千尋ははぁと再び大きなため息をついて本気で嫌そうな表情を浮かべソファーからすっと立ち上がり、「現実を見ろよ」と言いながらベランダの方に向かい始めてしまう。
きっとタバコを吸いたくなったのだろう。
ベランダの窓の横にある棚の上に置いているタバコの箱とジッポを手に取り、千尋はベランダの窓をカラカラと開ける。
いつもは閉められるその窓だけど、私も立ち上がって千尋に歩み寄り、その手に触れて窓を閉めるのを制する。
私の行動に気付いた千尋の目線が、私に向かって降ってきた。