口の悪い、彼は。
「……ったく。離れとけよ」
「うん!」
千尋はタバコを吸う時、私が近くにいることを快く思わない。
「タバコ吸う時くらい、ひとりにさせろよ」なんて言っているけど、本当は私のことを考えてくれているからだと思うんだ。
私が煙を吸わないようにって。
その証拠に少し距離を取っていればそばにいさせてくれるし、タバコを吸いながらツンツンした言葉は言われるけど話にちゃんと付き合ってくれるし、タバコを吸い終われば優しいキスをくれることだってある。
言葉には絶対に出してくれないけど、そういう優しいところがすごく好き。
千尋はベランダに置いてある灰皿を手に取り、手すりに寄りかかってタバコに火をつける。
そして私はベランダの窓に寄りかかって座る。
これが私たちのいつもの定位置。
風向きによっては千尋の立ち位置が変わることもある。
ここから見上げる千尋のタバコを吸う姿がすごく好きなんだ。
私と付き合い始めた頃はヘビースモーカーとまではいかないけど結構な量を吸っていた千尋だけど、ウザいと何度も言われながらも私は飴をあげたりなんやかんやと頑張って、1年半で半分の量にまで減らすことに成功した。
やっぱりたくさんタバコを吸うのは身体に悪いし、少しずつでもいいからタバコの量を減らせたらいいなと思ったのだ。
……とは言っても、「禁煙して」とは言わないけど。
千尋がタバコを吸う姿を見れなくなるのは嫌だから。