口の悪い、彼は。
ふぅ~と紫煙を吐き出す千尋の姿を眺めながら、私は口を開く。
「そういえばね、お姉ちゃんに私たちのこと、バレちゃった」
「あっそ」
「へ?いいの?千尋、他の人に知られたくないんじゃないの?」
てっきり嫌な表情をされると思ったのに、目に映る千尋は涼しい表情のままで、嫌そうでも怒っているようでもなかった。
「別に。つーか、気付いてると思ってたし」
「えぇっ!?嘘!」
「いちいち叫ぶな。うるせぇ」
千尋は顔をしかめる。
まさか千尋まで言葉にもしていないことに気付いていたなんて……。
さすが、感情が表に出ない者同士。
通じ合うものでもあるのだろうか。
「って、まさか……お姉ちゃんに一目惚れしたの!?」
「はぁ?何言ってんだ、お前は」
「だ、だって!目と目で会話したってことでしょ!?そこに特別な感情が……っ!?お姉ちゃんが相手だなんて勝てるはずなんかないけど、私、千尋と別れるなんて、やだ!そんなことになったら、喜多村さんと一緒に断固反対運動するから!」
「……はぁ。お前は根っからのアホだな」
「馬鹿馬鹿しすぎて付き合ってらんねぇ」とこぼし、千尋は外に目線を移し、タバコを吸う。
だって、もしもお姉ちゃんがライバルなんかになってしまったら、私には絶対に勝てるわけはないんだ。
お姉ちゃんは感情を表に出すのが苦手とは言っても、スタイルはいいし、美人だし、頭もよくて、性格もよくて、気もきく。
それに比べて私は……考えるだけでヘコむから考えないけど……。
月とすっぽんくらいの差があるにも関わらず、私がひねくれなかったのはお姉ちゃんがちゃんと私のことを見ていてくれたからだ。
遠く及ばないけど、私もお姉ちゃんみたいにそこにいるだけで自然と人を安心させることができるような人になりたいと思う。
そして、必要とされたいんだ。
……今は誰でもない、千尋に。
そうなるためにも、千尋のそばにできる限り長く居たい。