口の悪い、彼は。
「……ねぇ、千尋?」
「あ?」
「私、千尋のそばにいてもいいんだよね?」
「今さらな質問だな」
「ね、いい?」
「……好きにすればいいだろ」
ふぅ~、と紫煙を吐きながら、千尋はそう言ってくれる。
端から聞けば突き放されているように聞こえるかもしれないけど、これは千尋なりの『そばにいてもいい』という意味なんだと思うんだ。
その言葉に安心しながらも、もっと安心させてほしくて私は質問を続ける。
「泣き顔不細工だよ?」
「別にいいんじゃねぇか」
「お姉ちゃんみたいに美人でもないし」
「は?そこを比較する意味がわかんねぇ」
「色気も1ミリもないし」
「……はぁ。女はほんと、めんどくせぇことを突然言い出すよな。ウザい」
「……やっぱ、だよね。ごめん。うん、でも千尋のそばにいれるなら、何でもいいんだけどさ」
さっきまでお姉ちゃんたちの幸せそうな姿を見ていたからかもしれない。
私は“千尋のそばにいてもいい”という確証が欲しくなってしまったらしい。
千尋がそういう言葉をくれないことなんて、わかりきっているのに。
じたばたと無駄なことをしてしまう私を、千尋は呆れているだろう。
その証拠に、千尋は私にたまに向けてくれていた目線を完全にそらしてしまったから。
ほんの1メートルしか離れていないのに、その距離が遠く感じてしまって、私は立ち上がってタバコをくわえている千尋の広い背中にぎゅうっと抱き付いた。