口の悪い、彼は。
「高橋」
「は、はいっ!?」
「お前だってこんな時間まで仕事したくねぇだろ」
「あ、そう、ですね」
「だったら、就業時間くらいは気を引き締めろ。たかが8時間なんだし、チョロいもんだろ。防げるようなミスをすることほど時間が無駄なことはない」
「……はい」
「俺だってさっさと帰ってゆっくりしてぇんだ。無駄なことに時間を取られるのはごめんだ」
「!」
部長から出てきた想像もしていなかった台詞に私は動きを止めてしまった。
24時間ずっとツンツンしていて、きっとプライベートでも仕事の時と変わらずそうなんだろうと思ってたのに……部長も「ゆっくりしたい」なんてこと思うんだ。
プライベートでゆっくりしている部長の姿なんて全く想像はつかないけど……。
私ははっとある予想をする。
もしかして、部長ってただ闇雲にイライラしてその感情をぶつけているわけじゃなくて、ちゃんとした理由があって怒鳴ったりしてるの?
変に仕事に時間を使わないようにって?
……よーく思い返してみれば、思い当たる節はある。
怒られる理由はどれも気をつけていればミスをしなかったようなことばかりだ。
他の人が怒られているのが聞こえることも多いけど……時間に遅れたこととか資料の文字間違いとか、そんなものばかりのような気がする。
……理不尽なセリフなんて、一度も聞いたことはない。
何で今まで気づかなかったんだろう、と思ったけど、それは部長の何時でもぶれないツンツンオーラのせいだ。
ビクビクしすぎて、その言葉に含まれている意味を考えようともしなかっただけ。
部長は顧客を大切にしていて、仕事にただ真っ直ぐと真剣に向き合っているだけで、その言葉がキツいだけだったりする?
そう。
性格がどうこうじゃなくて……ただ、『口が悪い』。
うん、その言葉がぴったりと当てはまりそうだ。
……って、失礼なこと思ってるかもしれないけど。