口の悪い、彼は。
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佐東さんに話を聞いてからというもの、仕事をしていても、ふと思い出してしまう千尋と美都さんとのことに、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
平日は千尋と連絡を取らないこともあって確かめることもできないし、もしできたとしても……私は実行していただろうか?
……ううん、実行していなかったと思う。
だって、『美都さんと付き合ってたの?』なんて聞く勇気、私にはないから。
以前、あんなに素敵な大人の女性である美都さんと付き合っていたかもしれない千尋。
そして今は、うじうじと余計なことを考えてしまうような、こんな子供の私と付き合っている千尋。
どう考えてもその大きな差が引っ掛かってしまう。
……本当に千尋は私のことを好きでいてくれてるのかな?
……何で千尋は私なんかと付き合っているのかな?
なんて考えてしまうのだ。
トントンと伝票を揃えながら、はぁ、とため息をついた時、ぽんっと私の頭の上に誰かの手が乗っかってきた。
「!」
「高橋」
「あっ、喜多村さん」
「何だよー。何か浮かねぇ顔してんなー」
「!そんなことないですよー?まだお姉ちゃんたちの結婚式の余韻が続いてて、ほくほくしてますもん!」
「マジ?俺もっ」
にかっと笑った喜多村さんからは幸せオーラが放出されていて、つい『いいなぁ……』なんて思ってしまう。
「あ、なぁ。ちょっと悪いんだけど、これ、見てくんない?第一印象聞きたくてさ」
「え、何ですか?」
ひらりと目の前に差し出された資料を手に取り、そこに書かれているものを見たのと同時に、私は目を見開いた。
「……って、これ……!」
「どう?デザインしたやつなんだけど」
そう。私の手元にあるのは、時計のデザイン画だ。
丸時計の周りには蔦のようなものがくるくると巻き付いており、時計盤には鳥のシルエットが描かれていて、シンプルなのに存在感のあるデザインだと思う。
デザイン画の段階だから実際はどうなるのかわからないけど、直感的に素敵な時計になると感じた。