口の悪い、彼は。
 



3人のことを気にしつつ仕事をする中、美都さんがここに来た理由に私は気付いた。

美都さんはきっと、うちの会社とお姉ちゃんの会社とを繋ぐ家具のデザイン事務所の人間なのだ。

営業部のオフィスに来たということは、売り方の打ち合わせをするために来たのかもしれない。



美都さんが来てから3時間近くが過ぎ、定時が過ぎたというのに、応接室の扉が開くことはなかった。

外回りに出ている営業の人はまだほとんど戻ってきていなくて、私は手持ち無沙汰に今度発売される製品の仕様書を読んでいた。

3人が姿を現したのは定時が過ぎて1時間ほど経った頃だった。

会議室のドアがガチャっと音を立てて開いたのと同時に、美都さんの声が飛び込んでくる。


「あーん!疲れたぁ!でも楽しかったー!」

「うるせぇ。でけぇ声出すな」

「いーじゃない!なかなかの充実感よ!喜多村くんのおかげね!」

「いえ、俺はついていくのに必死で。すごく勉強になったし、楽しかったです。これからが楽しみで仕方ありません!ありがとうございます」


つんつんしている様子の千尋に反して、喜多村さんは満面の笑みだ。

3人はすっかり打ち解けている様子だった。


「それにしても、知夏ちゃんが喜多村くんを選んだ理由がよーくわかったわ!」

「ははっ、何ですか?それ」

「イケメンなのに爽やかで物腰柔らかくて性格良くて、仕事もバリバリできて!千尋も仕事はできるんだろうけど、性格的なものがどう考えても最悪だもの!性格最悪でしょ?こいつ!」

「おい」

「ほら~。すぐこうやって圧力かけて押さえ付けようとするし!千尋の彼女になる女は本当に大変よー?」


すっかり仲良くなったらしい3人がわいわいと話している姿を私は見ることができなかった。

ううん。心のどこかで“見たくない”という気持ちがあったのかもしれない。

 
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