口の悪い、彼は。
3
*
美都さんと笑顔で別れた後、マンションに着いた私はエントランスに入らず、外からぼんやりとマンションを見上げていた。
マンションのさらに上には、真っ白で街を照らすほどの明るい月がぽっかりと浮かんでいる。
今日は満月らしい。
私は空に向かって、はぁと息を溢す。
いろんなことを一気に知りすぎて疲れた。
それと同時に、わからないことも増えてしまった。
……千尋の心の中だ。
ここからだと千尋の部屋は見えない。
千尋はもう部屋にいるのだろうか。
会いたい。……けど、会うのが怖い。
私の頭の中はやっぱり千尋でいっぱいだなと思いながら、お酒のせいか、美都さんから聞いた話のせいか、身体の奥底でくすぶっている熱を冷ましたいと思った。
頬を撫でる風がひんやりとして気持ちいいし、ちょっと散歩してから帰ろうと、私はマンションの入り口とは反対方向に向かって足を踏み出す。
「おい。何やってんだ」
「っ!」
一歩踏み出した瞬間、後ろから大好きな人の声が聞こえてきて、私ははっと振り返った。
そこにいたのはスーツ姿ではない、私が一番大好きなオフの姿の千尋だった。