口の悪い、彼は。
マンションから5分ほど歩いたところにある小さな公園にたどり着く。
夜遅いこともあって、そこには人っ子ひとりいない。
ぽつんとあるブランコに私は近付き、座る。
一方、千尋はブランコの周りを囲むようにある柵に腰をかけ、タバコを取り出した。
カチンとジッポを開けて口にくわえたタバコに火をつける姿は、何度見ても映画のワンシーンを見ているようで私の胸をきゅんと締め付けるほどのカッコ良さだ。
散歩に行くと言ったのは、もしかしたら私に付き合ってくれたわけじゃなくて、タバコを吸うためだったのだろうか。
キィ、キィ、とブランコを小さく揺らす音が、しんとした公園に響く。
そして時折聞こえるのは、風が木々を揺らす音と、千尋が紫煙を吐き出すふぅ~という息の音。
私が話し掛けなければ千尋との間には何も会話は生まれないけど、こうやって近くにいれるだけで私は幸せを感じる。
でも、やっぱり欲しいものもあるんだ。
付き合い始めてから、一度きりしか言ってもらえていない言葉だ。
「……ね、千尋」
「何だ」
……私のこと、好きでいてくれてる?
そんな子ども染みたことが私は聞きたくて聞きたくて仕方がない。
千尋が私を好きでいてくれているという確信が欲しいのだ。
でも、きっと千尋はそういう風に聞かれるのはウザイと思うだろう。
……それに、きっと私よりもずっと大人の比奈子さんなら、そんなことは聞かず千尋のことをただ真っ直ぐ信じるんだと思う。