口の悪い、彼は。
私は言いそうになった言葉を自分の中に沈める。
千尋に嫌われないように、私も大人にならなきゃいけない。
「……ううん。何でもない」
タバコを吸いながら私の呼びかけに目線を向けてくれていた千尋に、私はふるふると首を横に振って自分から目線をそらす。
千尋はそんな私に何も言うことはなく、再び沈黙が私と千尋の間にたたずんだ。
こういう時、“千尋は私に興味がないのかもしれないな”と思うことがよくある。
私だったら、もし千尋が何かを言おうとして言いよどんだら、絶対に聞き出したいと思ってしまうから。
千尋はそうは思ってくれないよね……。
はぁ、と私は無意識にため息をついた。
「小春」
「っ!」
「何かあったのか」
「……っ」
千尋の問い掛けに、千尋が私のことを知ろうとしてくれているんだと思えて嬉しさが込み上げてくる反面、言ってしまえば千尋との関係が壊れてしまうかもしれないことが怖くて、私はつい誤魔化してしまう。
「……別に、何もないよ」
「……本当か?」
「……」
私は何も答えられない。
何分にも思える沈黙の後、千尋から大きなため息が出た。
また私は千尋を呆れさせてしまったらしい。
せっかくの千尋からの問い掛けに答えないなんて私はバカなのかもしれないと俯いた時、じゃり、と砂が鳴る音がした。
はっと顔を上げると、千尋が立ち上がって私のことをじっと見ていた。
「そろそろ帰るぞ」
「……」
「小春」
「……」
普段はあまり呼ばれない自分の名前を呼ばれて、目頭が熱くなっていく。
千尋に「小春」と呼んでもらえるのが、涙が出そうなほど嬉しい。
……ずっと、千尋のそばにいて、ずっと、こうやって名前を呼んでもらいたい。