口の悪い、彼は。
「高橋。お疲れ」
「喜多村さん、お疲れ様です」
「遅くなって悪いけど、これも追加でよろしく」
「あ、はい」
私はいつものように伝票を渡しに来た喜多村さんから、伝票を受け取る。
この伝票を入力し終わったら、締め作業に戻ろう。
千尋に任された仕事もあともう少しだけ頑張れば終わりだ。
私が伝票をぴらりとめくりながら入力作業を始めた時、すぐ上から声が降ってきた。
「……高橋、最近妙に大人しくねぇか?何かあった?」
「え?そんなことないですよー。あっ、そういえばこの前お姉ちゃんに結婚式の時の写真を一部送ってもらったんですけど、すっごく素敵でした!お姉ちゃんに“今度家に遊びに来て”って誘われたので、今度、新居にお邪魔させてもらいますね」
「うん。いつでも来てやって」
「はい!楽しみ~」
私は喜多村さんに笑顔を向け、再びパソコンに目線を戻す。
「……なぁ、高橋、本当に何もないんだな?」
「へ?本当に何もないですよ?あっ、私今日中にまとめちゃいたい作業があるので、仕事に戻りますね!」
「……そっか、うん」
「すみません」
「いや。あんまり無理すんなよ。お疲れ」
「はい。お疲れ様です」
喜多村さんは私のことを気にしながらもオフィスを出て行く。
オフィスの扉が閉まり、その空間にいるのが私ひとりになった瞬間、私はキーボードを打っていた指を止め、目を閉じてふぅと息をついた。