口の悪い、彼は。
 

お姉ちゃんには心配をかけたくなくて、千尋の元カノが比奈子さんだということや、千尋とケンカをしちゃったことはまだ言わないでおいたけど、知られてしまったのならきっと心配しているだろう。

昔からお姉ちゃんは私が悩みを打ち明けようと思えるまで、何も言わずに私のことを見守ってくれる。

いい大人なのに甘えているのかもしれないけど、今でもそんなお姉ちゃんの優しさに私はいつも支えられていて。

連絡がないのはいつものように私のタイミングを待ってくれているからだと思うけど、知られてしまったなら隠す必要もないし、言わなければもっと心配をかけてしまうことになる。

お姉ちゃんには後でちゃんと連絡しておかなきゃ。


「そっか。でね、今日誘ったのは、小春ちゃんにはきちんと話しておきたいと思って。真野くんと私のこと」

「!」

「気になってるよね?でも、真野くんはきっと何も言わないと思うから、私が話しておかなきゃいけないと思ったの」


「あの性格だものね」と言う比奈子さんのにっこりとした笑顔とその言葉に、本当に千尋と付き合っていたことがあって、千尋のことをよくわかっているんだなと感じた。

……やっぱり、私は比奈子さんには勝てないのかもしれない。


「美都に聞いたと思うけど、大学の時に真野くんと私が付き合ってたっていう話は本当のことよ」

「……はい」

「講義で真野くんとペアを組むことになったことがあって、最初はズバズバと物事を言ってくるから怖い人だなって思ってたんだけど、一緒に過ごすうちにただ真っ直ぐ前を向いている人なんだってことを知って、一気に彼に惹かれ始めたの。告白したのは私だったけど、真野くんはOKをくれてそばに居させてくれたし優しくしてくれてたから、ちゃんと私のことを好きでいてくれてるって感じることはできてた。すごく幸せだった。……でも結局、最後まで一度も、好きって言葉は言ってもらえなかったんだけどね」

「!」

「今もそうなのかな?あれって不安になっちゃうんだよね。本当に自分のことを好きって思ってくれてるのかなって、つい考えちゃうし。真野くんの性格を考えたら確かにそうするんだろうなって頭ではわかっても、やっぱり心は、ね」


少し悲しそうな表情で比奈子さんは笑ったけど、すぐにやわらかい笑みに戻る。

 
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