口の悪い、彼は。
私といる時の千尋は、ご飯を決める時もどこかに行く時も、私がこうしたいと言っても何かしら注文をつけてくるし、それで言い合いになってケンカになることだってある。
主に私が熱くなっているんだけど。
そういう時はじゃんけんして決めたりするけど、大抵私が負けてぶぅぶぅ文句を言うと、「うるせぇ」とすぐに言われるのだ。
……ただ、後でさらっとフォローが入るから、それがまた嬉しくもあり悔しくもあるんだけど。
それはいい言い方をすれば、千尋の心を見せてもらえているということなのかもしれないけど……真実は千尋にしかわからないことだ。
「自分から切り出したとは言っても、真野くんのことが好きって気持ちは大きかったから、やっぱり辛かったけどね」
「……」
「でも今となっては正解だったなって思ってるのよ?真野くんと別れる時に、“ちゃんと自分の心をさらけ出せる人と付き合ってね、何でも言い合える人を大切にしてね”って伝えたの。真野くんは“考えとく”って言ってて、それがまた彼らしいなって笑っちゃったんだけどね」
「……」
「そのおかげで笑顔で別れることもできて……最後の優しさだったのかなって思ってる」
確かに千尋らしい言葉だ。
「私ね、真野くんと付き合ってる時、嫌われたくないって気持ちがあって、どこかでいい子を演じてるところがあったかもしれないって思うことがあるんだよね」
「え?」
「私も“思ったことは言って欲しい”なんて真野くんに言っておきながら、自分も全部はさらけ出せてなかった気がするんだ。特に別れる前は真野くんに無理させてるんじゃないかっていう後ろめたさもあったから。……そう思うようになったのは、今、私の全てを受け入れて欲しいと思えるくらい、大切な人がいるからなの」
「!」
比奈子さんの言葉にはっと顔を上げると、そこには幸せそうな比奈子さんの笑顔があった。
大切な人って……誰?