口の悪い、彼は。
そうは思っても、千尋の出張は今日までで、きっと今頃は家に戻っているはずだ。
明日と明後日は社内業務みたいだから、幸か不幸か、絶対に顔を合わせることになるのだ。
合わせる顔なんて私にあるのだろうかと不安な気持ちが生まれてきてしまって、私はつい目を伏せてしまう。
「小春ちゃん」
「……は、い」
「近くにいてもその心の中がわからないこともあるけど、そばにいることができる時間がある限りはきっと大丈夫」
「……」
「真野くんはきっと、小春ちゃんには真正面から向き合ってると思うから。小春ちゃんより長く生きてる私の言葉を信じてみてくれないかな?」
「!」
「別れてからも真野くんが幸せになってくれることを本当に願ってたの。あんなに真面目な人そうそういないし、幸せになるべき人だって思ってたから。その相手が小春ちゃんだなんて、願ったり叶ったりだなってすごく嬉しくて。だから……お互いに幸せになろう?」
「……」
……私に頷く権利はあるの?
そう思う私の目に映るのは、優しく微笑んでくれている比奈子さんだった。
比奈子さんの優しい笑顔は全てを許してくれる気がする。
「ね?」
「っ!……はい……っ」
比奈子さんの言葉が嬉しすぎて涙がボロボロと出てきてしまう。
涙腺が壊れてしまった私を見て、比奈子さんは何も悪くないのにおろおろとしながら「ごめんね、ごめんね」と私の涙をハンカチで拭いてくれていた。
それが嬉しくて、可笑しくて、涙はなかなか止まってくれなかった。
……泣き止む頃、週末になったら千尋に連絡しようと、私は決心した。