口の悪い、彼は。
……部長って、ただわかりにくい人なだけなのかも。
この予想が当たっているならこれから部長を観察するのが楽しくなりそうだな、なんてことを考えながら、部長よりも先にエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押した。
部長が乗り込んだのを確認してから扉を閉めると、エレベーターの動く音だけが小さな箱の中に響き始める。
今までの私なら重苦しいだけの空間だと思っていたはずだけど、今の私はそんな風には感じなかった。
むしろ、“人間らしい”部長の姿を知って、何だかくすぐったく感じていた。
その感じがすごく心地いいし、何だか嬉しくて心が躍る。
私が話しかけなければ会話があるはずもなく、静寂に包まれたエレベーターはあっという間に1階に到着した。
「じゃあ、お疲れ」
「あっ、はい!お疲れ様でした!」
「寄り道なんかしねぇで、さっさと帰れよ」
「は、はいっ!」
部長はそう言い放っただけで私の方を振り向くこともなく、立体駐車場のある裏口の方へ歩いていく。
よくドラマであるような突然告白とかされちゃったり、『送って行く』と言われてみたりとかの展開はなかったけど、あまりにも予想通りすぎて私は部長の後ろ姿を見ながら笑ってしまった。
……でももしかしたら、「寄り道をするな」っていうのは『気をつけて帰れ』という意味だったのかもしれない。
それが真実ならやっぱりわかりにくい、と私は笑う。
部長はきっと、この私の笑いには気付いていないだろう。
ツンツンオーラを纏っていて360度死角なしだと感じさせる人だと思っていたけど、今見ているその背中はすごく無防備で、私はそれに対してまた笑ってしまったのだった。
◯。