口の悪い、彼は。
「っ!!」
「部長。おはようございます」
「あぁ。おはよう」
「……おはよう、ございます」
千尋はいつもと変わらず、朝から涼しい表情で挨拶をして自分のデスクに向かっていく。
私に目線が向いたのはほんの一瞬。
やっぱり何も、変わらないんだ。
私は千尋から目線をそらして再び窓の外を見て、ふぅと息をつく。
すると、横からぽんっと頭の上に手が乗ってきた。
「!」
「高橋」
「はい?」
「さっきの続き。俺はいつでもお前の味方だからな。兄ちゃんって呼んでもいいぞ?」
「……何ですか、それ。意味わかりませーん」
「えー、何でこの愛が伝わらないかなー?」
「……私には必要ないからじゃないですか?愛情はお姉ちゃんにたくさん注いでください」
「ちぇっ。高橋って結構冷てぇよなぁ~。兄ちゃん寂しい……」
「ふふっ」
むぅと唇を尖らせて拗ねた喜多村さんのことをくすくすと笑いながら見ていると、営業の何人かがおしゃべりしながらオフィスに入ってきた。
喜多村さんとハモって「おはようございまーす!」と笑顔で声を掛けると、みんなからも挨拶が返ってくる。
その中でも積極的に話し掛けて来てくれたのは佐東さんだ。
「高橋さんと喜多村は朝から元気だねー」
「新婚ほやほやで幸せたっぷりの喜多村さんには勝てませんけどね~」
「いやいや、今、高橋に冷たくされたから、俺、超落ち込んでるんです……」
「冷たくなんてしてないじゃないですかっ!お姉ちゃんとラブラブしてくださいって言っただけですもん!」
「あーはいはい。兄妹喧嘩はそれくらいにしとけよ!ははっ」
「いや~兄妹喧嘩っていい響きですね!……あっ、そうだそうだ!俺、佐東さんに渡すものあるんだった。ちょっと来てもらっていいですか?」
「うん。何?」
喜多村さんは思い出したようにそう言って、私の頭から手をするりと離して行ってしまう。
私はその後ろ姿を笑顔で見送った。
……さてと。空気の入れ換えもしたし、みんなも出社し始めたし、そろそろ仕事モードに切り替えよう。
とりあえずは目の前のことからこなしていかなきゃ。
私は窓の外に広がるいい天気に後ろ髪を引かれながら、開け放っていた窓を閉めた。