口の悪い、彼は。
*
「高橋、ちょっと」
「っ!……はい」
午後の仕事が始まって少し経った頃、突然千尋が私を呼んだ。
一瞬ドキッと心臓が音をたててしまったけど、私は深呼吸をして冷静に返事をした。
仕事なんだから、余計なことは考えずに気を引き締めないといけない。
千尋のデスクの前に立つと、千尋の目線がふと上がり、私を捕らえる。
真っ直ぐ見てくる瞳はいつでも変わらない。
「これとこれ。あと、共有フォルダのいつものところにも、これと同じ名前で上げてるやつがあるから、まとめて注文書を今日中に出しておいて」
「!……こんなに、ですか?」
「あ?」
「あっ、いえ。量がかなり多いので……驚きました」
「注文がたくさんあるのはいいことだろ。あと、これは明日の昼の会議で使うから、悪いけどまとめといて」
「……はい」
ドサドサと降ってくる仕事に、私の頭の中は段取りを考えるのに必死になる。
今日は元々あった仕事もまだ終わっていないから、残業確定だ。
……まぁ忙しい方が無駄なことを考えなくて済むし、仕事上だけでも役に立てるのは嬉しいからいいけど。
「じゃあ頼んだぞ」
「あっ、はい」
「返事は短くていい」
「……すみません」
いつものようにそう言われてしまい、本当に何も変わらない“部長”に私はぺこっと頭を下げて、自分のデスクに戻った。